悩み益

#365日ショートショート 356

　小銭の音がした。空から、いや、天から。次々と硬貨が降ってきたのだ。

「やった！急いで拾わないと！」

　声の主は歓喜した。

　しゃがみ、硬貨を黙々と拾う。

「悩んだ甲斐があったなぁ」。声色は明るい。

　そこへ、別の者がやってきた。

「それだけか。何日、悩んだんだい」

「三日ってところかな」

「割に合わないじゃないか」。ふふっ、と笑みが溢れる。

「でも、貰えないよりいいじゃない」

「それは違いない」

　全てを拾い終えた後、ぽつりと呟いた。

「そういえば、この前知ったんだけど。地球という星では、いくら悩んでも硬貨は降ってこないそうだよ」

「ええっ。じゃあなんであいつらは毎日のように悩んでいるんだ。時間の無駄じゃあないか」

「そうね。大抵の悩みなんて、進むか退くか、戦うか躱（かわ）すかしかないのに。それが駄目なら悩むことをやめるとかね」

　彼方の惑星に想いを馳せながら。

「そこになにか、お金じゃない価値があるのかなぁ」

「さあ、どうだろうね」