第11話 捕縛尋問

近衛騎士達がヒエームス公爵家にやってきた。ビビアンは、エドワードとの婚約のために王宮に召されるからだと思い、支度をしようとした。


「ビビアン・ヒエームス公爵令嬢、すぐにいらしてください」


「お待ちになって。王宮に行くならば、正装しなければならないので、着替えます」


「その必要はございません。貴女には、ステファニー・エスタス公爵令嬢誘拐の疑いがかかっております。陛下は、貴女を容疑者としてお召しですから、服装は問いません」


「・・・なっ!そんなわけありませんわ!ねえ、お父様?!」


怒りと不安をない交ぜにした目でビビアンが父親のヒエームス公爵を見ると、公爵は目をそらした。


「お父様?どういうことですの?まさか?!」


淑女らしくなく大声で泣き叫ぶビビアンは国王夫妻の下へ連れていかれた。その隣には、彼女の愛するエドワードが今にもビビアンに飛び掛かりそうなほど憎悪の表情を浮かべながら控えていた。


「ビビアン・ヒエームス公爵令嬢、貴女はたった今、ヒエームス公爵家を破門され、平民となった」


「なぜですか?!そんなの理不尽です!」


「理由は自分の胸に聞けばわかるだろう?」


「いいえ。わかりません」


国王ウィリアムは、貴族から色々な汚れ仕事の依頼を受けていた男を王宮の地下牢から連れて来させた。


「お前が犯した罪はなんだ?」


「ステファニー・エスタス公爵令嬢を誘拐させ、強姦させたことです」


「それを依頼したのは誰だ?」


「そこにいるビビアン・ヒエームス公爵令嬢です」


「違います!私にそんな計画を実行できる力も伝手もありません!父が依頼したに違いありません!」


ビビアンは、自分を見捨てた父をもう庇わなかったが、必死の無実の訴えが聞き入れられることはなかった。


「エドワード様、信じて下さい!」


ビビアンは、今度は愛するエドワードに無実を必死に訴えたが、エドワードは悔しさと憎さが満ちた目でビビアンを睨んでいた。その目はビビアンを怯えさせるのに十分だった。


「いやーっ!そんな目で私を見ないでぇーっ!」


取り乱したビビアンは近衛騎士達に引きずられるように地下牢へ連れていかれた。その後、ビビアンは終身刑の受刑者と処刑を待つ受刑者が収容される牢屋に移送された。


1週間後、エドワードはビビアンが収容されている牢屋へ向かった。暗く湿っぽい牢に囚われているビビアンは薄汚れてやつれ、かつての美しい容姿は見る影もなかった。エドワードを見た途端、ビビアンはどろりと濁った目に喜びを浮かべてエドワードに向かって叫んだ。


「エドワード様!助けに来てくださったんですよね?早くこの汚い場所から私を救い出して下さい!」


「人の人生と尊厳をめちゃくちゃにしておいてよくもそんなことを言えるな。お前にはこの汚い場所がお似合いだよ」


「な、何をおっしゃっているのですか?冤罪です!婚約者にそんな酷いことを言わないで下さいませ?!」


「ふん、汚らわしい!お前と婚約したことなど1度だってないだろう!気がふれたか?」


「そ、そんな!お忘れになったのですか?!」


「それは全てお前の妄想だ。本当だったらお前とお前の父の首をはねてやりたいくらい憎んでいるが、私刑が禁止されているからお前達は命拾いしただけだ。一生、その汚い豚箱で人生を謳歌せよ!」


「嫌です!お助け下さいーー!!」


泣き叫ぶビビアンを振り返らずに、エドワードは牢屋を去り、その後2度とビビアンに会うことはなかった。ビビアンは、令嬢として育った身には過酷で不潔な環境がたたったのか、はたまた愛するエドワードに憎悪されたことが絶望につながったのか、次第に気がふれていつもブツブツと妄想を言うようになっていった。


実行犯を仲介した男は処刑され、実行犯とみられる盗賊らしき男達は王都で遺体となって見つかり、ステファニーの誘拐強姦事件の捜査はこれで完全に幕引きとなった。盗賊の遺体のうち1体は、燃えるような赤毛の体格のよい男のもので、他の男達は平民によくある焦げ茶色の髪だった。

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