第10話 犯人捜し

エドワードの説得も空しく、ステファニーの父ケネス・エスタス公爵は娘を修道院に送る意思を曲げなかった。誘拐事件から2週間後、身体は癒えたはずとして彼女は王宮から修道院へ出発することになった。しかし、エドワードの見送りは許されなかった。


その頃、ヒエームス公爵家では、ビビアンがご機嫌で父親と話していた。


「お父様、あの忌々しい女が今日、修道院へ送られたんですってね。これでやっと私がエドワード殿下の婚約者になれるわ!」


「王家からはまだ打診はないぞ」


「あの女の修道院送りは今日だから、さすがに打診はもう少し後だと思うの」


「そうだな。今のうちに婚約式用にドレスや宝飾品を注文しておこう」


「ありがとう、お父様!」


エドワードはもちろんビビアンと婚約する気は全くなかった。父王との約束通り、誘拐事件の犯人が捕まるまでは新たな婚約は棚上げされている。そうでないと、新たな婚約者がまた誘拐のターゲットになる恐れがあるからだ。最もその理由は表向きで、エドワードはなるべく新たな婚約を引き延ばしたかった。


エドワードとリチャードは、貴族から汚れ仕事の依頼を受けている男を探し出し、ヒエームス公爵家や実行犯グループとの繋がりを見つけた。実行犯達の本職は盗賊で、時々依頼を受けて誘拐などの他の犯罪行為もしているとわかった。


「リチャード、黒幕がヒエームス公爵かヒエームス公爵令嬢だったのかはまだわかってないのか?」


「捕まった男は、令嬢から依頼されたと言っている。実行犯の行方はまだ見つかっていない」


エドワードは、黒幕への糸口が見つかったことに安堵したものの、ヒエームス公爵家と仲介者、実行犯に激しい怒りを覚えた。


「本当に令嬢の単独計画なのか?ヒエームス公爵が娘を差し出してトカゲのしっぽ切りをしようとしているだけじゃないのか?」


「ヒエームス公爵は娘を見捨てたのだろうな。王家は旧貴族と新興貴族の勢力争いと民主化運動激化の中で難しい舵取りをしなくてはならない。だが、ヒエームス公爵令嬢に全て罪をなすりつけて今回の事件の幕を引けば、貴族間の勢力図に大きな変化は起きないで済む」


「父上はヒエームス家を取り潰して貴族間のパワーバランスが変わるリスクをとるよりも、令嬢を主犯にして事態を収拾するということか・・・」


「そうするだろうな」


「くそっ!真犯人をのさばらせておくしかないのか!」


エドワードは爪を掌に食い込むほど拳を強く握り、歯ぎしりをした。


ヒエームス一派は旧貴族派の中でも王家の強力な味方なので、この微妙な政治情勢の中でその派閥のトップの家門を取り潰して王家の味方を減らすわけにいかなかった。だからビビアン単独の企みということにしてビビアンだけ罪をかぶり、ヒエームス公爵は強制引退・息子への当主移譲、その後の領地での永久蟄居程度で済ますことになった。

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