第十一章
『異端の鳥は籠の中で興醒める』
僅かにも
作造はまだ少し朦朧としている。酔いが抜け切らないようで、会話の受け答えも怪しい。福助は縄が食い込んで痛いと喚く。その声が倉庫の中で反響し、章一郎の耳に障った。
巨大な倉庫はがらんとしていた。小さな木箱が隅に何個か置かれただけで、ほかに荷はない。一番奥に狭い階段が見えた。作業用の通路なのだろうか。壁の中程の高さに回廊があって、倉庫内を半周している。そこに堂上が立っていた。
「うるさいぞ、福助。いい加減、諦めろ。諸君は籠の中の鳥だ」
「堂上、貴様、こんなことが許されると思うなよ」
柏原が叫んだ。章一郎がかつて見た覚えのない怒りに満ちた鋭い目付きだった。頭上の手品師は鼻で笑い、これ見よがしに葉巻を吸い始めた。ますます悪人めいて、籠の中の鳥を苛立たせるが、何処かぎごちなく、
「ひとつ聞いてもいいか。土蔵に居た割烹着の若者はどうした。なぜ一緒に連れて来なかったんだ」
割烹着の若者とは
「あの男は、まあ惜しいんだが、長い船旅に耐えられそうにないと、そんな結論だったかな」
長い船旅とは何か。埠頭に運ばれた時点で、次の乗り物が船だと察していたが、章一郎は手品師の言葉に含みがあるように思えた。遠い
「なんてこった」
それまで沈黙していた
目的地が近県ならば、トラックに積んで運べば良いだろう。遠方に渡る船便も手間と時間が掛かるが、取り分け国際航路の船は港で厳しい検査を受けるとも聞く。犯罪には不向きだ。副島は密航を企てているのか。
「貴様、適当なことを抜かすな。俺たちを外国に売り
柏原は頭ごなしに否定した。解せない点が多いと言う。
「福助は間違って連れて来たんだ。まあ、
重大な犯罪に絡んでいなければ、笑い話しで済んだだろう。堂上によると、
「そんなので、おいら外国に連れてかれるのかよ」
一寸法師は絶句した。章一郎は運命の分かれ道となった旅館の風景を思い描く。珠代は副島を見て逃げ出した。坂田は選抜が行われた大広間に居たはずだが、指名から漏れた。福助はあの時、クラリネットを吹いて、はしゃいでいた。同じ侏儒で同じ坊主頭。単純な取り違えである。
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