第九章
『斯くして美女は復讐心を滾らす』
「妙な胸騒ぎがしたけど、まさかこんな酷いことになるなんて」
指定された劇場の前で、
異常事態を察知したのは、温泉街の千秋楽が終わり、夜に
「きっと、その快適そうなバスに相乗りしたに違いない」
だが、太夫元にも無断で、誰にも
残された曲芸団一行は、翌朝早く温泉街を発ち、夕刻までに帝都・浅草に到着した。そして予約済みだという宿屋で荷解きをしようすると、断られた。主人は何も聞いてないと言うばかりで、埒が明かない。次いで、歌劇団と共演する予定の劇場を訪れたところ、そこは老舗の寄席だった。
「歌劇だと。バカ言っちゃいけねえよ。うちは明日も明後日も、一年後だって落語と講談だよ」
耶絵子は宣伝チラシを見せて粘ったが、寄席の
何の宛てもない帝都の真ん中に、深川曲芸団は放り出された。仕事もなければ、泊まる場所もない。浅草近辺に野営ができるような更地は見当たらず、隅田川沿いに野っ原もない。最悪の事態だ。耶絵子を筆頭に皆が歌劇団支配人と名乗る男の悪口を言った。
「あの野郎、許しちゃおけねえ」
「ここに居ないのなら、いったい何処に行ってしまったのか…」
手違いでも取り違えでもなく、騙されたことは明白だった。歌劇団の親玉は想像を絶した悪人で、計画的な犯行の匂いも濃い。指名され、連行された者たちが別の場所で
夜も更けて行く宛てもない。宮司はとても憐れんで、境内に曲芸団のバスを招き入れ、目処がつくまで留まるよう言ってくれた。一同は安堵したが、耶絵子は怒りが鎮まらない様子だった。
「どっかに手掛かりがあるはずよ。あの
美女は復讐心を
<注釈>
*席亭=寄席の経営者、支配人。
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