『わたしの畸型の子ら、と曲芸団の長は言った』
舞台で座員が働いている間、
「今朝、身内の者から聞かされて曲芸団の興行があるということを知ったのですよ。もう少し早く参って挨拶をせねばと思っていたのですが、野暮用がありましてね。来てみたら、盛況で中に入れないではありませんか。うちみたいに
恰幅がよく
「大サーカス団のように定期的に都市を巡回したり、後援団体を持っているわけではございませんので、どこぞの誰かに興行を依頼されることもなく、まあ昔は大きな神社の有名なお祭りに名を連ねていたこともありましたが、今では外見も中身も変わりました。不法に空き地や公園の一角を利用してテントを設けては細々と興行し、追い払われるか、また、問題にならぬうちに逃げてゆくか…いずれにしましても公にならぬよう努めているのです。あたなのように歓迎して下さる方なんて、滅多にございません。ありがたいことです」
深川は丁重に感謝の意を表した。実際、深川曲芸団はテントを置く町や村で、住民の感激ぶりと反比例するかのように、地元の有力者や教育関係者から毛嫌いされ、疎まれた。その点、この町長の態度は稀であった。
「けれども全く宣伝をしないというのは少々変ですな。そこまで資金が乏しいわけでもないでしょうに。事前に曲芸の内容が判れば、初日から客の入りも多かったろうと思いますがね」
町長の
「あなたは公演の番組を一切ご存じないと…」
「ええ、失礼ながらそうです」
小太りの町長は怪訝な面持ちで太夫元を
「わたしの畸型の子らを未だご覧になっていないのですか」
深川の口から飛び出した言葉は、砕けた水晶のような怪しい光を宿していた。
<注釈>
*太夫元=座長、団長。興行の主宰者。
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