【五章】同じ夢を見続ける
日が落ちてパレードが始まると光で世界が彩られていく。六人は横ならびに座りながらパレードを眺めている。海斗と安里はスマホで写真を撮りながら眺めていて、その隣の陽斗と杏は話しながら眺めている。パレードの音で会話の内容は判らないが楽しそうな雰囲気がして、杏の隣に座りながら凛も光輝く世界に夢中になる。
少しだけ左に座る葵が距離を縮めた気がして、視線を向けると目が合った。今見るべきはパレードな筈なのに、何故葵は自分を見ているのだろう。光りに照らされてキラキラと揺れる瞳が綺麗だなんて見つめ返せば小さく微笑まれたのが判った。
「パレード見てていいよ」
「……葵もみていいよ?」
「うん……そうだね……」
言葉と行動が一致しない葵を見つめ続ける。パレードが通過する時間はそれほど長くない。だから見逃さない様に前を向いた方がいい。でも光り輝く瞳に夢中になってしまい、まるで世界には二人だけしか存在していないような錯覚に陥る。
「パレードみないの?」
「……凛が見たら見るよ」
「……私も、葵がみたらみるもん」
「ふふっ、じゃあ一生見れないね?」
そうやって意地悪に笑うから、意地でも葵より先に視線を外さないと凛はじっと視線を送る。同じように視線を送っていた葵は観念したのか名残惜しそうにパレードへ視線を向ける。だけど凛の視線は変わらない。光で照らされる葵の横顔は王子様のように格好良い。身長もだが座高も葵の方が高くて少しだけ見上げて見る姿は美しく、吸い込まれる様に凛は葵の横顔に顔を近付けた。
「……ッ!」
「……キレイだね」
一瞬だけ頬に触れた熱を感じて葵は勢いよく視線を凛に向ければ、大好きな
「……今度はさ、二人きりで来よう?」
「うん、もちろん!」
赤い顔を見られたくなくて葵は再びパレードへ視線を向けながら小さく呟いた。嬉しそうな凛の声が聞こえて、きっとまた大好きな
パレードが終わり葵は満足そうに凛へ視線を向けるとじっと見つめる姿が映った。少しだけ葵の方へ身体を向けていて、もしかしてずっと自分の事を見ていたのだろうかと疑問を抱く。考えていれば凛は立ち上がり手を差し伸べてくる。先を越されたことに少し不満を抱きながら凛の手を掴んで立ち上がると、レジャーシートを畳んで鞄にまとめている海斗に渡す。
お土産を買ったら帰ろうという事になり、六人でショップへ向かう。買い終わったら店頭に集合と約束をして、各々選びに店内を回っていった。
*
海斗と安里は下見をしていたので買いたい物は大体決まっていた。のんびり話しながら買い物を済ますと先に外に出て雑談を始める。
「安里、今日はありがとう。凄く楽しかったよ」
「わたしもですよ。杏と凛の楽しそうな姿も久々に見れましたし」
「俺は陽が迷惑かけてないかすごく心配だな……」
「大丈夫ですよ。杏は嫌な事はきちんという子ですから」
安心した海斗の表情を見て微笑む安里は、海斗との距離を縮めて寄り添った。海斗が社会人になってから会う頻度も減ってしまい、デートの回数も減っていた。今度は安里が就活で忙しくなるし、束の間の休息を満喫する様に海斗の傍を離れなかった。
「海斗さんの傍にいると、とても落ち着くんです」
そう甘えるように海斗に背中を預けて目を瞑る。
そんな安里が離れない様に海斗は自然と腰に手を回す。
この時間が延々に続けばいいのに、と思うのはどちらだろうか。
*
杏は陽斗の手を引っ張ってぬいぐるみの売り場に直行していた。買う物は決まっているらしく目的のぬいぐるみを取ると陽斗に渡す。大きさに驚いていると杏は不満そうな表情をする。
「なんでも買ってくれるんでしょ?」
「おう、男に二言はねえ! これだけでいいのか?」
「いい」
「んじゃあ買って来るから待ってろ」
あまりにも潔くレジに向かう物だから杏は驚いているけれども、値段を見たら吃驚するのではないだろうか。高校生のバイト代では躊躇ってしまう程の値段も社会に出ていれば気にしないのだろうか、と疑問に思う。まあでも先程恥ずかしい程に揶揄ってきたのは陽斗だ。陽斗に言わせれば「これでチャラ」なのだから気にしなくていいのだろう。そう考えていると陽斗が戻って来て、手を繋いで店を出て行く。
「あ、自分で持つから……」
「いーよ、結構デカいし。それより手を繋いでくれた方が嬉しーんだけど?」
「……ありがと」
肝心な所ではちゃんとする陽斗にやはり大人だななんて思いながら、杏は陽斗の手を強く握って海斗と安里の元へ向かって行った。
*
凛は悩んでいる。誰に買うかは決めているが、何を買うかが決まらない。友達へのお土産は食べ物がいいと思ってはいるのだが、凛は優柔不断な所があり売り場のお菓子を眺めながら唸っている。葵は買う物が決まったのか籠を持って唸る凛の隣に並び小さく笑う。
「ねえ、楓のお土産どれがいいかな?」
「うーん、そうだな……どれで悩んでるの?」
葵の問いにお菓子を指差しながら相談して、その中で楓が一番好みそうなものを選べばそれにする、と凛は葵の選んだお菓子を手に取った。あとは家族へのお土産と自分用のお土産だが、家族のお土産にもまた悩んでいて、そんな姿が可愛らしいなと思いながら葵は凛の買い物に付き合っていた。
「凛、ちょっと来て」
「なに?」
買う物が決まり後は会計を済ますだけになった所で、葵が手招きするのでついて行く。髪留めのコーナーで立ち止まるとヘアゴムを指さして「どれがいい?」と問うてくる。どういう意味だろうか、と不思議そうに葵を見上げれば微笑まれた。
「お揃いで買わない?」
「いいの?」
「うん。僕は髪留めとしては使えないけど、折角なら髪留めが良いかなって」
「えへへ、折角ならシュシュがいいかな」
そう言って凛は悩み始める。じっくりと、自分に似合う物と言うよりは葵に似合うものを選別していって、一つ手に取ると葵の腕に重ねる様にして似合うのを確認する。普段シュシュを使わない葵はブレスレットとしてか鞄に付けてくれる気がしたので、似合うのを確認すると葵に渡した。凛から受け取ったシュシュを見つめた後、葵も同じように凛の髪に重ねてみる。愛おしい者を見る瞳は優しくて、大切にされていると実感する。
「ねえ葵……」
「何?」
「私ね、葵の事がもっと好きになったよ」
「……ふふっ、僕もどんどん凛の事を好きになってるよ」
大好きな
家族ぐるみでの付き合いがこれからも続いて欲しい。そうすれば大切な家族とも一緒に居られる。それは二人にとって何よりも幸福だ。
「だから、一生仲良くしてね?」
「凛が嫌だって言っても、絶対に離さないけど……いい?」
「私も絶対離さないもん!」
そうやって笑い合える日々が一生であってほしい。きっと二人でなら永遠を共に過ごせるだろう。
夢の世界の出口を出ても、また次の夢へ繋がっていく。そうして一生同じ夢を見続けたい。
手を繋いで、一緒に歩く二人は幸せそうに笑い続けた。
<END>
僕の彼氏と私の彼女 響城藍 @hibikiai
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