第20話

 とうとうその日がきてしまった。天霧吹雪(正確には朝霧野風さん)と死神とやらの契約満了の日。年が明けた1月4日。なんでもこの日が死神の仕事始めだそうだ。死神にも年末年始の休暇があるらしい。知らなかったよ、ハハハ。


 正月の間、俺は吹雪と二人だけで過ごした。幸いドイツの両親は今年も帰国しなかったし、早波若葉や有明カスミさんのお誘いは丁重にお断りした。もちろん悪友どもにも会わなかった。付き合いの悪いヤツだと思われただろうけど。


 俺と吹雪が何をしていたかと言うと……特に何もしなかった。いやホントだよ。誰だ変な期待をしたのは! 唯一、二人で外出したのは隣町にある「トッカーブロート」というパン屋。とにかく美味いと評判で、笑顔の可愛い看板娘がいると聞いたからだ。実際そのパン、マジで美味かった! 看板娘もうわさにたがわず超可愛かったよ。ただ不思議なことに彼女には吹雪が見えているようだったが。


 さて前置きが長くなってしまった。天霧吹雪とお別れの日。こればかりはどうしようもない。彼女が突然俺の部屋に現れてから約四ヶ月、俺は吹雪に何もしてやれなかった。後悔後に立たずである。


「章太郎さん、ワタシそろそろ行かないと。今晩死神さんが来るから」

 吹雪は努めて明るく振る舞っているようだ。

「そ、そうか、その辺まで送るよ」

 俺は吹雪と一緒に部屋を出た。


「章太郎さん、短い間でしたが楽しかったですよ。ホントにありがとう」

「……いや、俺の方こそ……目標が達成できなくてすまん。俺が不甲斐ないばっかりに」

「そんな……まだまだこれからですよ、期待してます」

「……吹雪……」

「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌をお忘れなく。それと若葉さんとカスミさんによろしく。北風響君と冬月時雨さんのフォローもしてあげてください」

 そう言えば、何か忘れていると思っていた。北風響と冬月時雨の物語。中途半端になっていたっけ。まあしょうがない、それどころじゃなかったんだから。


 そうこうするうちに、吹雪が足を止めた。

「章太郎さん、そろそろこの辺りで……もう朝霧野風の所に行かなくちゃ」

「うん、がんばれよ」

 俺は間の抜けた励ましかたをした。ほかに言いようがなかったから。

「章太郎さんもお元気で。ご活躍をお祈りしています。それでは……」


 これが天霧吹雪の最後の言葉だった。金髪碧眼の超美人は俺の前から姿を消した。もう二度と会うことはないだろう。俺は空を見上げた。涙は出なかった。さあ帰るとするか。


 玄関ドアを開けると、部屋に灯りがついていた。あれ? 出かける時に消し忘れたかな。

 俺は靴を脱いで部屋に入った。

「章太郎さん、おかえりなさい」

「ああ、ただいま……って! ふ、吹雪! な、なんでおまえが⁉」

 そこにはついさっき別れたばかりの天霧吹雪が満面の笑みを浮かべていた。


「おい吹雪! 朝霧野風さんのところに行ったんじゃ……死神が迎えにくるんだろ?」

「ええ行ってきましたよ。死神さんにも会って来ました。死神さん早めに来て待っていてくれました」

「ふーん、死神のヤツ時間厳守じゃないんだな」

「そこで、主治医の工藤愛子先生と鉢合わせしたんです。工藤先生怒り狂って、サモン、サモン、と召喚獣を呼び出して死神さんとバトルになって。結果、死神さんがダウンしちゃった。工藤先生の召喚獣ホントに強かったです」

「それで死神は追い払われたってことか?」

「工藤先生に、二度と来るな、ボクの患者に手を出すなって一喝されて。すごすごと帰っていったわ」 

 ちょと召喚獣召喚についてルール違反があるような気がするが。まあ細かいことは言いっこなしということで。しかしなんて弱い死神だろう。よく勤まっているもんだ。

「というわけで、戻ってきました! 章太郎さんよろしくねっ!」


 俺と金髪碧眼の超美人、天霧吹雪の物語。とりあえずここで一段落する。ただひとつ言えること。俺のペンネームは世界一可愛い!


            おしまい

              


 

 





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俺のペンネームは世界一可愛い 船越麻央 @funakoshimao

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