Last Episode だっはっは!


 夏休みに入ってすぐ、のあの日。


 会わせたい人がいるからと約束し、いまちゃんのウチに向かった私達。


 許せないだろうか。

 カヤの外、に悲しむだろうか。

 裏切られた、と思うだろうか。

 

 全部かもしれない。

 

 でも、いまちゃんなら。

 わかってくれるのではないかとも、思う。

 圭太さんのあの時の覚悟と決断を。

 

 不安と願いと期待が行ったり来たり。


「ううう、緊張するね」

「ハル、顔色悪いよ?うちに戻って待ってる?」

「大丈夫、だよ!」


 秋人あきと君の心配顔にガッツポーズをした。


「そっか、わかった。無理はしないで」

「秋人君もね」


 そういう秋人君もやはり、緊張している。

 すると。


「ごめんね、遥ちゃん。無理しなくていいのよ?」


 圭太さんのお母さん、友部友梨ともべゆりさんが声をかけてくる。


「私達が伊万里ちゃんに伝えなきゃならない事なのに」


 そう言って友梨さんは顔を曇らせる。


「いえ!大切ないまちゃんの事ですし。ね、秋人君!」

「うん。もともとは僕がふと考えて勝手に動き回った結果ですし、最後まで見届けさせてもらいたいです」

 

 私達の言葉に、圭太さんのお父さん、雄一郎さんと圭太さんが頭を下げた。


「私達にきっかけをくれて、ありがとう。後は、全てを告げて伊万里ちゃんの判断に任せます」

「お二人とも本当にありがとう……ございます!叩かれても、許してもらえなくても、覚悟はできてます」

「ひゃあ?!私達に敬語いらないですよ!」


 透き通るような肌を少し紅潮させ、圭太さんが唇を噛みしめた。


 優しげな顔立ちと穏やかな話し方は、なるほど、いまちゃんの好きな人はこんな感じなんだ……と思う。


 少しずつ打ち解け合いながら、五人で歩いた。


 が。


 いまちゃんの家の近くまで行って、私達は立ち止まる。


 いまちゃんは。

 家の前で待ちかまえていた。


 腕を組んで。

 塀に背中をもたせかけて。

 美しい顔に、ジト目を乗せて。


 そして。


「圭太。てめえ、覚悟はできてんだろうな。入れよ」


 その言葉には、怒りがもっていた。

 


 始まりは、秋人君の疑問からだった。


「遠いからってお葬式に参列できないのはともかく、お墓参りに行かせてもらえない、ってどうなのかな」


 秋人君はさり気なく圭太さんの名前と病名をいまちゃんに聞き出し、ネットなどで調べた。


 すると外国で検索がヒットし、その記事のコピーを持っていまちゃんの留守にご両親に詳細を聞きにいった。


 そして、事実が判明した。


 日本では手術例が少なく、根本的な治療ができない難病を患い、どんどんと命を削られていた圭太さん。


 外国では成功例があるのだが、その成功が三割にも満たない難しい手術をする事が嫌だったらしい。


 だけど、いまちゃんの病院から転院する直前に。


「ずっとそばにいる!」

「僕は長生きできないんだ!一緒にいれないんだ!」


 と泣きながら大ケンカをし、そして謝る事ができないまま転院した先で、外国で手術を受ける決意をしたそうだ。


 だけど。


『手術が失敗して伊万里を悲しませるくらいなら』と日本をたつ前に、もう会えない内容のメールを送ったそうだ。


 治らないなら、もしこのまま死んでしまうなら。

 もう、死んだ事にしたい。

 いつ具合が悪くなるかと、悲しませたくない。


 その圭太さんの決意は、いまちゃんと圭太さん双方のご両親に結局は受け入れられた。


 結果手術は成功したが、手術後生存率が低いと言われる年数を越えても、ここから遠く離れた圭太さんの田舎でリハビリをしながら通院し、慎重に過ごしていたそうだ。


 そして、秋人君が連絡を取った時は、次回の通院でお医者さんのお墨付きがもらえるかどうか、というタイミングだったらしい。


 そしてみんなで相談を重ね、今日が訪れた。



 黙っていた、いまちゃんが口を開いた。


「なるほどな。みんなであたしを訳か。道理で葬式にも墓参りにも行かせちゃもらえねえ訳だ。こっちは馬鹿みてえに泣いてたってのによ」


 怒りの物言いに、みんなが押し黙る。


「朝っぱらから親父とお袋にとんでも話聞かされて、挙げ句はご本人様ご登場か。もういい」

「伊万里、待ちなさい!」

「伊万里ちゃん、ごめんなさい!待って!」


 いまちゃんのお母さん、美弥みやさんと友梨さんが立ち上がったいまちゃんを引き止める。


「い……まり。ごめん」

「あ?だからもういいっつってんだろ、圭太。能書きなんざいらねえ。ちっとこっち来いよ」


 はらはらと見守る私達と、慌て始めるご両親達。


「まずは顔、一発張らせろ。そんぐらいの覚悟もなしに来た訳じゃねえよなぁ?」

「伊万里、いい加減にしなさい!」


 いまちゃんのお父さん、一樹いつきさんも立ち上がる。


「いいんです。身勝手な事をした僕のせいだとはわかってますから。子供の考えでした。伊万里、本当にごめん。許してくれないのを承知で君に謝りに来たんだ」


 いまちゃんが手を振り上げた。

 圭太さんが目を閉じる。


 ぺちん。


 動きからは想像できない、音が鳴った。


「圭太、あったけえ……生きてんだな、ホントに」


 いまちゃんは、圭太さんの服を掴んで見上げる。


「あん時はごめん、本当にごめんな。アンタの気持ちを考えないで好き勝手言っちまって。会えなくなって……ずっと後悔してた。アンタが生きてて、嬉しくねえ訳ねえだろうがよ!夢じゃねえよな?本当なんだな……?これからはずっと一緒にいていいんだな……?」


 そう言っていまちゃんは、圭太さんにしがみついて大声で泣き始めた。


 圭太さんは、そんないまちゃんの頭や背中を撫でる。


 私達も思わず貰い泣きしてしまった。


「圭太ぁ!もっとギュッと!……頭撫で撫で足んねえよ!……うあああん、けーたぁ!!」


 といういまちゃんの声を聞きながら。


 

「だっはっは!コイツ、圭太!私の彼氏!やんねぇぞ?」


 学校帰りの商店街で。


 いまちゃんに寄っていっては悲鳴や歓声をあげる人達。

 圭太さんはいまちゃんの側でアワアワしている。


 転入してきた圭太さんと、四人で登下校。


 最近、毎日いまちゃんはこんな感じで絶好調。

 それを見た私は、頑張った秋人君に言う。


「秋人君、すごいね」

「え?ど、どうして?」

「気付きが行動力が、みんなを笑顔にしちゃった」


 昔から大好きすぎるのに、もっと好きになった。

 もう、一日中抱きついててもいいですか!


「いまさんに感謝してるし、ハルも毎日頑張ってる。僕も負けられないからさ。いまさんに恩返し、できたかな」

「だ、だからってアレはダメだからね?!」


 そんな私の心の声を聞いたのか、いまちゃんが。


「そういや、アキ!礼の胸10回モミモミはいつすんだ?あ、代わりに一発、は勘弁してくれ。あたしの初めてはぜーんぶ、圭太のもんだ」


 ニヒヒ、と笑ったいまちゃんに。


「イヤほんと結構ですから!」

「だ、だめー!!秋人君!か、代わりに最近多分!成長いちじるしい私のでっ!」

「そ、それはいつか是非お願いします……」

「伊万里、エッチな事を大声で言わない!胸も、ダメ!」


 今日も、わいわいと肩を並べて歩く私達。

 きっと、明日も。

 これからも。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【新】どんな明日が待ちかまえていようとも、少女は歯を食いしばって今日を走った。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説