ダーク・トルーパーズ ~鋼の漆黒小隊~  【マセキ・コントローール!外伝】

さんご

第1話 プロローグ

 ある帝国兵:


 俺達は森の奥の木の影に身を隠しながら、今日も不味い携帯食をモソモソと食べて、疲れた身体を少しでも休めようとしていた。

 何でこんな事になっているのかと言うと、俺達の村の若い男達の多くが隣の国の王国に対しての戦争に駆り出されて、その中に俺も含まれていたという簡単な話だ。


 この戦争が始まってもう何年か経つが、未だに終わる気配はない。

 故郷にいる家族とは、従軍してから一度も会えていない状態だ。

 何とか連絡を取りたいのだが、俺は字が書けないから家族に手紙も送れないし、そもそも家族の誰も字が読めないから、はじめから無理な話なんだがな。

 何でこんな戦争なんてしているのか俺には全く見当も付かないが、国のお偉いさんは一体何を考えてこの戦争を始めたんだ?


 そんな考えてもどうしようもない事を考えている暇が有ったら、サッサと飯を食って敵との戦闘に備えて準備しろというのは頭では分かってはいるが、たまには愚痴も言いたくなってくるってもんだ。

 まあ上官に聞かれでもしたらしこたま怒られるから、絶対に口に出したりはしないがな。


 今日はこのままここで、敵が攻めてくるのを待ち伏せると上官が言っていたので、俺は息を殺して身を隠して置く。

 近くにいる同僚も気を張って辺りを警戒しているのが窺える。

 森の中は暗く、湿度も高いしジッとしていても汗が垂れてくる。

 なんとも気が滅入って来るが、任務なんだから我慢するしかないと、汗を拭いながら敵を待つ。


 そうしてどれくらいの時間が経ったか分からなくなった頃に、遠くの方から不意に悲鳴と雄叫びが上がるのが聞こえてきた。

 遂に敵が攻めてきたようだ。

 俺は緊張で手に汗をかいていたのをズボンで拭って、持っていた武器を強く握り直した。


 暫くの間、前方で響き渡る戦闘音を聞いていたが、その音が徐々にこちらに近づいて来ているのが分かった。

 俺もこの戦争に駆り出されて、結構長い時間を過ごして来ている。

 だから戦闘が迫って来ているこの時間が、一番心がざわめき心地良く思える様になって来てしまっている。

 これでは戦争が終わった後に、普通の生活が送れるか不安に思えてくるが、今はそれは横に置いておこう。


 さあ、ついに戦争の時間だ。

 だから精一杯、この戦闘を心から楽しもう。

 俺は自分自身にそう言い聞かせて、武器を手に敵前に躍り出た。


  ~ ~ ~ ~ ~


 黒い鎧を装備した兵士達が、森の中を横に距離を開けながら戦場を進んでいく。

 そして、そこかしこから戦闘の音が聞こえてくる。

 だが戦闘の音とは言うが、聞こえてくるのは主に相手側の兵士の雄叫びや悲鳴だけで、黒鎧側からは特に声等は聞こえては来ない。

 ただ黙々と歩を進め、決められた仕事をこなして行く様に相手兵士を蹂躙していくのみだ。


 その黒鎧の兵士の内の一人が、少し大き目の木に差し掛かった時にも同じ様な状況が起こった。

 突然木の影からベテラン風の兵士が飛び出して来たが、黒鎧にはその存在は既に索敵レーダーで認識されていたので、即座に装備していた小銃型のレーザー銃で何発か撃たれて射殺された。

 そのレーザー銃は、銃身はそれ程長くは無いが格好は武骨で、エネルギー源として内蔵する魔石量は十分な量が有り、攻撃力や継戦能力も高い。

 黒鎧は兵士の死体を前にしても一顧だにせず、その横を平然と通り過ぎ歩を進める。

 黒鎧の兵士達が通り過ぎた後には敵兵の死体だけが残されて、辺りには静寂がもたらされた。

 そこに黒鎧の兵士達の後を追うように三人の人物が姿を現して、その内の皮鎧を着た人物がため息を吐きながら、銀鎧を装備した他の二人に話すでも無く喋り始めた。


「はあぁ、敵兵を全員殺しちゃってこの後の死体の片付けとかはどうするんだよ。

 別に殺さなくてもただ戦えなくするだけで十分なんだけどなぁ。

 皆、俺の言った事をちゃんと聞いてたのかねぇ?

 その辺どうなの? 」


 それに答えるように銀鎧の内の背の高い方が話し出す。


「マスター、彼女達は皆しっかり聞いていましたよ。

 と言うか、聴音センサーの感度は私より高性能です。

 ねえ、ツー? 」


 そして残りの銀鎧の背の低い方が更に答えた。


「ウン、同じ性能の私にもしっかり聞こえてたよー。

 アレだよねー。

 マスターは皆に舐められてるんじゃないかなー? 」


「やっぱりそうなのかねぇ。

 なんであいつ等のAIは俺の言う事を素直に聞いてくれないんだ?

 訳分からんな。」


「マスターに対する彼女達のAIの命令遵守の優先度がかなり抑えられているからじゃないですかねぇ。

 まあ、彼女達の戦闘能力を鑑みればもしもの場合の事を考えても仕方がないのかもしれませんが。」


「上の奴等は俺の裏切りを心配してんのかよ。

 だったら俺じゃない奴に管理させれば良いじゃないか。

 俺はもう、全部放り出して家に帰りたいよ。はあぁ。」


「まあまあ、そんな事言わずに。

 彼女達のお陰で安全に戦争が出来るんだから、楽が出来て良いじゃないですか。」


「そうは言うが、またこの事で上の連中に長々と嫌みを言われるんだぞ。

 堪ったもんじゃ無いよ。はあぁ。」


 皮鎧の人物がまた溜息をついて落ち込んだ。

 彼の名は【ハーロック・ロリングストン】という。

 一応この物語の中心人物の一人になる。

 銀鎧の背の高い方の名は【ヘル・ヘルシング】、低い方の名は【ヘルガイル・mk-Ⅱ】、通称【ヘルツー】又は【ツー】と呼ばれている。


 この物語は、ハーロックの部下である七人の黒鎧達を含めた十人で構成する小隊の今般の戦争での全行動を纏めた物となる。







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