第3話

「これでお前が何をしたのかわかったか?」

重苦しい声が俺に問いかける。


お前こそ、わかっているのか?お嬢様を脅かす叔父が倒されめでたしめでたし?そんなわけないだろう。結局彼がなぜそんな奇行に走ったか、真相は闇の中だ。お嬢様が常に命の危険にさらされているとわかっているのか?


今にも叫んでやりたい言葉は口の中の布にせき止められる。


それもこれも、お前らが俺を捕まえたせいだ。お嬢様を守れるのは俺だけだ。俺はただ、彼女を安心させたかっただけなのに。血にまみれていたら笑顔すら穢れたものに変わるのか?昔、何度身分の差を教えても、俺を「お兄ちゃん」と呼び慕い続けていた幼い彼女に問いかける。もう許されないのだろうか。

殺してやれるくらい恨みを込めて睨みつけると、乱暴に猿轡を外される。心の中を渦巻いていた言葉を叩きつける。


「俺は何もしてない!彼女を村に連れて帰っただけだ!あの時、お前らが先に襲ってきたんだろうが!お前らこそわかってんのか、彼女を守れるのか?俺がやらなきゃ」バキッ

「またそれか!何べん言やわかるんだ!お前は領主のご令嬢の心を傷つけた危険人物でしかないんだよ!村人も、ご令嬢本人でさえそう思ってる!それが使命だなんだと……ふざけたこと言ってんじゃねぇ!『もう二度と▲▲様に近づかない』とひとつ誓うんだよ!」


「じゃあお前らが守れるのか⁈彼女が信頼できる人間はもういないのに!」


「……威勢だけはいいな」


バタン。男は部屋を出て行った。





***




「ありがとうございました。あなたの身の安全は我々が保証します。奴には一筆書かせるのにも少々手間取ってはいますが……大丈夫です」

「そう、ですか……」


パタン、と扉が閉まる。今まで彼の仕事だった戸締りを確認し、自室に戻る。

自室へ戻ると、ベッドに倒れ伏す。

無意識に緊張していたのか、喉が渇いた。水差しの水に手をのばす。コップに注ぎ、ぐいっと飲み干した。


「……⁈」

その瞬間、喉が熱くなり胸が締め付けられるように痛んだ。

硬直した手からコップが滑り落ちて割れた。


まさか毒?誰が、いつ、どうやって。


そうだ、お父様はあんな事態になっても誰にも相談しなかった。この土地の近くには栄えた国が、国王がいたのに。私たちをたった一人の従者に任せて、他の護衛は誰もいなかった。誰も信用できなかったから?お父様の言うよくないお金はどこから来たの?あの賢い叔父様の心を動かしてしまうほどの大金。

今日来た人たちは国の軍隊の所属だと言っていた。まさか、まさか。

こんな時になって妙に頭が回る。しかし一人でどれだけ考えてもわからない。もう考えるための酸素も脳に送られてはいない。

視界が暗くなる。


ああ、私は誰も信じちゃいけなかった。たった一人をのぞいて。今更謝ったって遅いけど、私が逃げなければ私が最後まで信じていれば。


ごめんなさい。お兄ちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姫を守るナイトのお話 藤間伊織 @idks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説