青春は、ラブコメはまだかな?

夕日ゆうや

青春はどこにある

「この後どうする?」

 飲み会の二次会で俺は亜海あみに話しかける。

 亜海は女子のリーダー的な立ち位置で、ノリもいい。

「ん。普通にカラオケっしょ!」

 それでも残りは半分くらい。

 俺たちはカラオケに向かって歩き出す。

 女子の半分くらいは駅前に向かって歩き出す。

 俺の義妹がこちらを一瞬見やる。

「だー。飲んでいるかー。少年」

「少年じゃないっす。俺は瀬川せがわ武彦たけひこっす」

「まあ、いいじゃない。呼び方くらいな? 靑戸あおと

 亜海の悪いクセが出ている。

 もう忘年会には来たくないな。

 俺はそう思うが、靑戸に引きずられカラオケに行く。

 まあ、家にいても気まずい思いをするだけだ。

 それならこのまま呑まれてしまってもいいのかもしれない。

 カラオケに着くと、俺は目立たないように隅っこでスマホをいじる。

「おう。少年も歌いたまえ」

 亜海が嬉しそうに俺にマイクと端末を渡してくる。

「……じゃあ、一曲だけ」

 俺はそう言い、一曲だけ歌う。

 声を抑えるように、曲に合うように。

「ほー。少年はイケボじゃないか。いいね!」

 歌い終えるとスマホが振動する。

《おにぃ。いつ帰るの?》

《悪い。先に寝ていてくれ》

「あー。青春始まらないかな……」

 俺はまだ青春を味わったことがない。

 大学生にもなってまだ青春を味わっていない。

 それは遅いと言われるかもしれない。だが、一度は味わってみたい。

《おにぃのバカ》

「少年。また歌いなよ!」

「え。いや、俺は……」

「少年のバカぁ~」

 俺にはなんで罵倒されているのか分からずに、カラオケ店を先にでる。

 一人歩いていると、路地裏から声が聞こえる。

「け、警察呼びますよ!」

 一人の少女が、男一人に迫られている。

「警官が来る前に楽しもうじゃないか」

「バカ野郎!」

 俺は蹴りを球に食らわせ、その女子を救う。

「おう。痛いこった」

「ありがとうございます」

 その子はお礼を言うと、その場から立ち去る。

 俺はのんびりと家に向かい歩き出す。

 ――おにぃ。

 もう少し、のんびり歩こうか。


 今年もあと少し。

 ラブコメっぽいこと、青春っぽいことがなかったな。

 今年を振り返り、俺はため息をもらす。

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