第3話
「いや、でも先輩の猫仙人が出した眠り……だま? だったんだろ?」
「ネムグモです……」
「ああ、ネムグモ……。で、その先輩ならもっと力が大きいんじゃないか?」
だから願いも大きく叶うんじゃ……そう思う俺に、もちもちは説明してくれた。
「ネムグモはそのままだとただの煙です。煙を材料に自分の力を注いで、願いが叶う煙にするのです」
そうしてやっと、願いが叶えられるのですよ、と。
「そ、そっかぁー……いやあの、ありがとうな。このギフト券、大事に使うからな」
そう言うと、もちもちは嬉しそうに尻尾をピンっと立てた。
俺の為に頑張ってくれたんだもんな、褒めてやらないと。
もちもちの頭を撫でていると、電話が掛かってきた。
「休みのところ突然悪いな、店長だ。急で申し訳ないが、明日バイト出てくれないか?」
「えっ、あっ、はい、わかりました」
俺の返事を聞くと「悪いな、助かる」と言って店長からの電話が切れた。
「……これも?」
「きっとそうですよ、よかったですねご主人」
休みが潰れた……あ、いやお金が欲しいとは言ったが……こういう事?
「まあ……いいか」
もちもちの『褒めて、褒めて』と言った顔を見ていたらそう思えた。
「ではご主人、さよならです」
「なんというか、別れを惜しむとか無いんだな……」
「猫ですから『待て』は出来ないのです」
「うん、そうか……」
もう少し一緒にいたいが、猫仙人は急ぐようだ。
「今まで可愛がってくれて、ありがとうなのです」
「こっちこそ、おまえがいてくれたおかげで、楽しかったよ」
「では」
もちもちは忍者の如く、煙と共に姿を消した。
「最後は空、飛ばないのか……」
しんとした空気に、さっきまでの出来事が夢みたいだ……。
「淋しいよ、もちもち……」
それでも猫仙人として生き返った事は、素直に嬉しい。
「じゃあな、もちもち。頑張れよ」
3年間、傍にいてくれてありがとうな。
翌日。
ピピピピーっという目覚まし時計の音で眠りから覚めた。
「早っ! 7時って今日休みなんじゃ……」
そこではたと思い出す。
……あっ、昨日もちもちに……
「もちもち……」
もういないんだと思うと、気持ちが滅入った。
ベッドの中でしみじみと、もちもちがいた時の事を思い出す。
3年間って、長いようで短かったな……もっと構ってやったり、うまい飯を買ってやればよかった。
朝は必ず俺のところまで来て、飯、催促をしてたのに……
けど、あいつは新たな人生を始めだしたんだ……本当に生き返ってくれて、よかった……それだけで十分だよな。
「猫仙人として頑張れよ」
「がんばってますよ~」
「!?」
慌てて起き上がり声がした方を見ると、俺のベッドの端でもちもちがアクビをしていた。
「もちもち、おまえ……あっちの世界に行ったんじゃないのか……っ」
「行ったんですけど、まだ修行中の身でして……戻って来ちゃいました」
俺は思わずもちもちを抱きしめた。
「よく帰ってきてくれた。ありがとう、もちもち!」
「く、苦しいですよ、ご主人~」
猫仙人でもなんでもいい、またもちもちと暮らせるなら、それが一番の願いだ。
「そうだ。もちもち、ねこプチ食べるか?」
「ね、ねこプチ! 食べるです、食べるです!」
はぐはぐと美味しそうに食べるもちもちを見てると、心が和んだ。
「今日バイト帰りに新しいおもちゃ、買ってやるからな」
「いい子で待ってるのです! 早く帰ってきて下さいね!」
「うん、仕事頑張って早く終わらせてくる」
こうして、新たに猫仙人として生き返ったもちもちと……
「ひとつ訂正を。おいら猫仙人になったので『もちもち』から『百千』になったのです!」
「そうなのか、前と対して変わらないけど……」
我が家の猫仙人、ももちとまた一緒に暮らす事になった。
完
幸せのかぎしっぽ 梅福三鶯 @kumokuro358
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます