第2話

「だいたい一般的な願いなら叶いますよ。あとひとつ、どうしますか?」


「あとひとつ……って、さっきのカウントされちゃってるの?」


「はい、言葉に出した時点で」


「まじか……」


 なかなかシビアだ……


「研修で聞いたところ、人間の欲望は大丈夫みたいです」


「研修してきたの?」


「もちろんですよ、一通りは教わってきたのです」


 アルバイトの研修みたいなもんかな……


「猫仙人になるのも大変みたいだな……お疲れ」


 ノドを掻いてやると嬉しそうにゴロゴロ鳴らすもちもちは、生前のままだ。




「んー……じゃあお金が欲しいかな。今月、なんだかんだ使ったし……」


「なるほどですね、ではお金が欲しいという願いを叶えましょう」


 もちもちは「あ! もちもち!」という俺の制止を聞かず、四つ足で軽やかに走り、3階のアパートの窓から空へ飛び出した。


「お、おいっ!」


 姿が見えなくなり、慌てて窓の縁に手をかけて身を乗り出すと、


「ご主人、ここです」


 もちもちは猫かき……(というのか)をしながら浮いていた。


「もう、なんでも有りなんだな……」


 力が抜けて項垂れる俺に、


「猫仙人ですから、普通の猫と『すぺっく』が違うのです」


 と言い一生懸命、空中を飛んでいる。


「うーん……まだうまく飛べないですね……仕方ない」


 では行ってきます! と、もちもちは覚束ない足取り(?)で、浮上していった。


 心配で見ていると、もちもちはなにやら、「へいっ!」「ほいっ!」と四苦八苦している。


「もちもち~、大丈夫かぁ~?」


 思わず声をかけると、


「取れました~!」


 もちもちはなにかを抱えて、降りてきた。


「……雲か? すごいな、もちもち」


「ご主人、これはただの雲じゃございません。猫仙人の[#ruby=眠雲_ネムグモ#]の煙なんですよ」


「ねむぐも?」


 話を聞くと、ネムグモは熟練した猫仙人が眠っている間に出している煙らしい。


 新米の猫仙人は、まだこの眠雲を出せない。


 その為に、先輩の猫仙人の眠雲を使って力を補う事で、願いを叶えるのだと言う。


「では、ご主人の頭に……えいっ!」


「ぶはっ!……げほげほ」


 もちもちに眠雲をかけられて、咳込んだ。


「さあ、叶いましたよ」


「ほんとか?」


 まさか本当に願いが……?




 と、突然スマホのメールの着信音が鳴った。慌てて開くと、


「……あ、当たった」


 この前ネットの懸賞で応募したギフト券の当選メールだった。


「すごいな、もちもち。500円のギフト券が当たったよ」


 そう言う俺に、もちもちは


「よかったですね、ご主人」


 一緒に喜んでくれた。


 そのまま一人と一匹、他になにか起こるか待ってみる。


……


…………


 結局、小一時間待っても、なにも起きなかった。


「えっと、もちもち……」


 俺が話しかけると、もちもちは明らかにシュンとしている。



……え、


「いやまさか、これだけって事は……ある、の……か?」


「たぶん……おいらの力だと『これだけ』です……」


 そのまさかだった。


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