第45話 お別れの時間

 突如現れたピンク兎が、仲良しのデオに触れようとしていた。唐突に現れたのにも、理由がある。それを私は理解し、瀕死のデオに手が届く前に、杖で叩き飛ばした。


「痛いです。私のデオをいじめた挙句、私までいじめるんですか?」

「私の仲間を、喰っといて、初めに出る言葉がそれか?」

「あら、食べたのは、デオでしょう? 私は助けに来ただけ、それはお互いそうでしょう? 貴女は助けられなかったみたいですけど」


「助けられてないのも、お互いだな」

「私はデオが死んでも、大丈夫。人質にもならない」

「人質にしようなんて、思ってない」

「そう? なら返してくれる?」

「嫌だ。私はコイツを許してないし、許す気もないから、ずっと、苦痛の中に生きてもらう」


「困りました。それでは、こうしましょう。私の導きでこの子を生き返らせてあげます。だから、デオを返して?」


「とある魔王は世界の半分をやると言ったが、その半分は暗黒の世界だった。その話が本当でも、お前にとって都合のいい結果にしかならない」


「それは、この交渉を呑んでみないと、わからないですよ?」


「敵が出す交渉を誰が呑む?」


「仕方ありません。誓いましょう。禁酒公デアリンガー・ホールドの名において、必ずこの先において、あなた達の邪魔をしないと」


「なら俄然無理な話、もう御託はいい。来いよ、禁酒公」


「あまり争いたくはないんですが、そうせざる、おえないですね」


 逃げない、もう、奪われるのは、ごめんだ。私のッ……私の大事なッ……

 

 兎はカンフーを模した構えで私を、待ち構えている。

 「贖うなよ」

 初弾は兎の上段蹴り、顎をピンポイントで決めようとしてきた。当たればそのまま首が捻りねじ切れていたであろう威力。

 顔を後ろに引き、風圧が髪を揺らす。中段腹蹴り、回し蹴り、かかと落とし、全てを骨が折れても、不動で受け止め、次の攻撃を残しておいた、左手を使い、蹴り上げられた足をつかんだ。魔法使いが、近距離で戦う術は、全てにおいて強化である。

「離せ! 遡行の導きで―――」

 導き詠唱を、振り下ろすことで阻害し、口内にてを入れる。

「ふにゃふにゃッ!」

「そんなに舌を動かして、邪魔そうだね」


 閻魔の舌抜きの如く引っこ抜き、叫び泣き、口を手で覆う。垂れてきた血を見て若干清々しく思えた。


「一本ずつ食わせるか」

 四肢の一つ左足を引き千切り、デオの前においた。


「餌だ」

 デオに回復を与え、幻術をかけた。気絶から覚めると、咄嗟に喰らいつく。友の足だとも知らずに。

 四肢を捥いでは与え、胴体と頭だけになった。その頃には息絶えていて、そして、幻術を解いた。


「デ……ア……?」

 血肉を喰わせて骨を断つ。

 ゲボを吐けるだけ吐き、寄せれるだけよせ、その上に覆い被さった。踏みつけるには丁度いい高さである。


「お別れの時間だ」


 頭部を虫を踏むより簡単に踏み潰した。

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