第38話 不出来な精神
「酒豪の導きで記憶を混濁せん」
「うっ」
胃の不調、頭痛、倦怠感、2日酔いの症状が身体を襲う。吐瀉を地面に撒き、次第に考えが覚束なくなってきた。
「面白いな、この導きは」
“勝手に身体のっとってんじゃねーよ”
脳裏にエルナの声が響く。
「ほう、君も自我を発するか。なら、見ておけ仲間の最後を」
酔い倒れたラミアに近づき、手刀で心臓を突き刺そうとするが、その手を止めたのは、まだ酔いが抜けきらないベルフェであった。虚ろな目から涙をこぼす。
「殺さないで」
「勇者はお人好しじゃないんだ」
そういい腕を斬り飛ばし、頭を切りとった。
「勇者はどうとかじゃない、お前がお人好しじゃないだけだ」
「起きたか、おはよう淵源人君」
「……数少ない同族を」
静かな怒りを露わにし、ふらつく足で立ち向かった。
「終わりにしようではないか、」
殴りかかってきた威力のない拳を握って耳元でささやくと、ラミアから
「剣豪の導きで
目隠しをして、気配を消し近づいた女が居合斬りを使い、剣を鞘に納めた。それは道中で出会ったメアリーであった。おそらくはブラッドが連れてきたのだろう。
「あらあら、物騒なことになってたわねぇ」
「これは……剣豪の……」
意識が切り替わりはじめ、眠りにつく。すぐさま起き上がり、穴の開いたラミアを抱きしめた。しかしラミアは同族のベルフェを指さし彼女のそばに連れていくよう手を貸してくれと頼んだ。体からはみ出た臓物を押さえながら。
「妾が同族よ、安らかに眠れ。先立つ故人に会えるよう、ヘカーテに贖罪の祈りを」
「ラミア……」
「大丈夫、実の孫ではない。妾には双子の姉がいる。エキドナといってな。妾とそっくりじゃから、間違えたのだろうな」
ラミアは同族の隣で倒れ、痛みに耐えている。
「その子が王殺しの子ですか?」
首を手に取り眺めていた。
「メアリー、その首どうするの」
「恐らく晒し首になるでしょうね、国の威厳を損なわない為に」
「王を危険に晒したのは私の方だ。私がその悪魔を連れてきた。どんな処罰でも受ける。だからその悪魔の首を私に」
「王を殺害した者の討伐依頼を受けてきたので……、まぁいいです。自分に責任を感じているなら吝かではないですね」
酒豪を主犯とした行いだとするため、剣豪は鞘から再び剣を引き出しエルナの首に狙いを定めていると、兎が前に出てきた。
「待ってください‼︎ ガーリン、ラミア様に回復魔法を」
「貴女はクリスタ……でしたね」
「エルナは優しいから、偽善で罪を被ろうとしてる。例え自分では、なかったとしても。その悪魔の気持ちを察したんだと。私は思うから」
「う〜ん、困りましたぁ。そうだ。王は居なくとも王子は居るので、処罰は王子に決めてもらいましょう」
「クリスタ……、私は人を殺した。不出来な精神のせいで」
私はあの悪魔に謝って欲しかっただけ。泣いて詫びても、あの悪魔の道はもう、無い
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