第37話 転生の死に損ない

 それはラミアが昔、食した人物。気になっていた。なぜあの酒豪勇者を見たとき別人の記憶、そしてあの少女の記憶が有ったのかが。


「初代勇者ッ!!」

「? あぁ、君は確かラミア、子喰らいの…… 久しいな。世は美味しかったか?」

「テメェがあの子に、転生さえしなければッ!!」


「必要だったのだ、あの子の持つ導き、≪平和≫だけど自我が強すぎてね、自殺できなかった」


 ラミアを見たマタ・ドール・ベルフェはその既視感で思い出した。母の母、幼いころ二、三度会った血縁者。

「―――叔母様」



「だから、私に食わせたと、泣きながら私にすり寄って来て、私の最初の恋人だったのに、いや、俺のか……今はいい考えるな……」


「大変だな、人格が沢山あると」


 話を続ける勇者とラミア。それ構いなしに叔母様といいながら、突進していった。そして、抱擁される。

「ラミア叔母様!!」

「おい、やめろ。後でいくらでも、抱擁してやるから」

 抱擁は解かれ、勇者に言い放つ。

「一生、転生出来ないように、封印してやる」


「世を封印すれば、この世界をサタンが征服することになるがよいのか、またこの世界を戦乱に導くと君はいうのだな」


「たとえ、そうなっても私は悪魔だ、関係ない。」

「なら、やってみよ」

 ラミアは目に捉えることができない蹴りを勇者に食らわせたが、微動だにせず逆に足を払われた。悪魔の祖、淵源の悪魔であるラミアは何にでも負けない、負けたことがなかったが、今わかる。このままでは敗北してしまうと。


「淵源人とは大それた存在だと思っていたのにな。世は残念だ」

「蹴り一発で、分かったつもりか?」

「そうか? 世を封印するのだろ? 頑張れ淵源人」


 二撃、三撃と打撃していくが、全て受け流される。弁慶並みに動かない。ならばと、ベルフェにハルバードを寄越すようにいい、斬撃に切り替えた。


「玩具で世が傷つくと?」


 それでも、跳ね返されるばかりで擦り傷すらもない。勇者にダメージを与える算段が立たない。そればかりか、反撃されればこっちがダメージを受けるばかり。無意味な打撃、斬撃。


「つまらぬな、酒豪勇者、仲間の導きを使い鎮めてやろう」



「効かねぇよ」

「ふむ、君は勘違いをしている。酒豪の導き本来の能力は酔いの先にある記憶の混濁だ。酒豪の導きで記憶を混濁せん」

 

 導きをベルフェに向かい能力を発すると、膝から崩れ落ち、後から見れば羞恥である顔をしラミアを母と呼び、あまつさえ太ももに甘えついた。戦いの最中邪魔でしかない。

「これで私を鎮められると?」

「酒豪の強さは使えば使うほどに能力が上がる」


「やってみろよ、転生の死に損ない如きが」

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