第30話 得体の知れない斬撃
旅路準備の買い物を終わり一同、部屋へ戻り休息をとる。これからも、また禁酒公が現れたり、はたまた、魔物に襲われるかもしれないが、それも旅の一興。禁酒公を1人逃してしまったのは、痛手だったし、まだまだ、強くならないといけないと、痛感した。
クリスタとエルナはベッドに潜り、就寝していた最中、不気味な音を立てながら、扉が開く。床が軋む音も響きながら、音の発信源はエルナに近づいてくる。毛布の中に入り込み、エルナは金縛りにあったように、身動きが取れずにいた。息苦しさもし始めて、目を開けると、そこには、ガーリンがいた。
「ッッ‼ びっくりした……」
「寝れないから、一緒に寝ていい?」
「甘えん坊か。私を馬鹿にしてたガーリンはどこに、いったのやら」
「いいじゃない。一応、エルナの師匠なんだから、言う事聴いてくれたって」
「静かにね、明日も早いし」
「やった」
背中を向けて、睡眠を取ろうとすると、背筋を指でなぞられた。堪らず声を上げてクリスタを起こしそうになるが、眠りは深くてよかった。その光景をみて小さく笑い声をあげている奴が一人いる。
「よっわ!」
「次やったら、一緒に寝ないからな!」
「冗談だから怒んないで、なら、こうして寝よ」
片方の手を重ねてつないぐ。少しばかしドキドキする。
「これなら、いいでしょ」
「手つなぎたいだけなら、早く言えよ……寝るから、お休み」
「お休み……」
そういえば、ガーリンのキスから私はエルフの特徴の長い耳になった。彼女自身が至高の酒でいいのだろうか。いつ聞こうか、タイミングがなかったな。
そう考え事をしながら、目を閉じて、なんてことのない夢を見る。
「おはよう。起きて」
「にゃん、にゃむにゃむ、」
「ふわぁおん、おはようございます。エルナ」
皆を起こして早速、ファザーに向けて旅立つため、荷物を整えて馬車に乗り込む。また、馬車に揺られて長旅が始まる。
「それでは、私はこれでお別れですね。」
「カナリアは、これからどうするの?」
「私は、クロンダイクに戻りソルティ皇女殿下とブルー皇子殿下の従事に戻ります。それと、魔女様の訃報も告げなければ、なりませんね……」
「なんというか、大変ですね」
「いえいえ、勇者様もこれからのご活躍と苦労もございましょう。お互い様というモノです。それでは、」
「だね……、私たちも行こうか。賭博国家ファザーに」
カナリアに見送られ深くお辞儀をされた。この国を救った訳でもないのに、ラミアがいなければ、死んでいた。だから、私は禁酒公よりも強く、淵源人よりも強くなる。そう決意した。
「ファザー、懐かしいですね。私が行った時、大負けして特定奴隷になってしまいましたけど」
「特定……奴隷……」
もう、行きたくなくなる言葉が出てきた。やめたい。ここで完にしたい。
「奴隷にされるの?」
「奴隷っていっても、無条件に働かされるだけだから、負け分がひどくなければ、皿洗い程度で済みます」
「ま、マイナスにならなければ、特定奴隷にはならないからッ! 私なんて周りがざこ過ぎて大勝したけど!」
「それは、魔女の子供だったから、手加減されたんだろうね」
「は、違うから、ふん!」
「拗ねるなよ、笑って、あの笑顔もう一回みたいな」
「ふふ、仲良くなってますね! ガーリンさんの笑顔私も見てみたいです!」
「しょうがないから、一回だけだから」
にかっと笑い、そして恥ずかしくなったのか、顔を隠した。
そんな、談笑もすすみ、時間が立つと馬車が揺れ始めた。はなから、馬車は揺れるものだが、そうではなく微かな揺れが段々大きくなってくる地震とはまた違う迫ってくる揺れ。
荷台から顔を出して辺りを見渡すと、遠くの森方面からゴブリンやら、オーガやらがわんさか、此方に向かって来ていた。
馬もそれに気付いたのか、暴れ出し落ち着きがなくなり、止まってしまう。
「ゴブリンぐらいなら、行けるか」
「でも、あの大群。私でも経験したことない量です」
「極大魔法ぶちかましたら、チリになって気持ちよさそうだけどッ」
「我が導きにより、貴様らを酔いへと誘わん‼︎」
禁酒公には使わなかった導き。それは、お酒の酔いへの強さで決まる。不明瞭な技であったからだ。
ゴブリン軍団には、効果があり三分の二は減らせたが、やはり、効果が薄い者がいる。
「あのキモい軍団は何?」
「第二人類のゴブリンとオーガです! 教えましたよね!」
「あんな、妖怪みたいな見た目しといて、人なのか。殺すのが惜しくなってきた」
「あいつ等は、東に向かっていない。あれは害意のある魔物。きっしょいから、早く片付けようよ」
「本当にいいんだよね。あれでも一応は人なんだよね」
「ゴブリンは悪魔と小人、オーガは悪魔と巨人。悪しき心しか持たない。罪人と一緒」
「わかった」
皆が杖を取り出して、魔法で対抗を始める。先陣を切ってガーリンは火球を幾つも出せるメテオラを……。とその前に、誰かの斬撃がゴブリンらの頭部を刎ねた。
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