第31話 斬れない肉体とそれ以外斬れる剣

 頭部を刎ねたゴブリンの奥から、剣を持った目隠し女とここにきて、またもや獣人で細身のぐうたらそうな女がこちらに来ている。敵意がないと両手を上げている。構えていた杖を下して、挨拶が交わせるほどに近寄ってきた。


「すみませぇ〜ん、お怪我は、御座いませんかぁ?」

「ええ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます!」

「はにゃー、大丈夫なら、任務こなして早く帰るにゃ」


 語尾が[にゃ]であるが、見た目は犬や狼に近く、大きな尻尾にケモミミにピアスまでしてある。細身な割に筋肉質で高身長。もう片方は、剣士でありながら、両目隠しをしている。ピンクの髪は派手であるが、美徳を感じられる。ポニーテールは肩ほどまである。


「私の理想図……」

 獣人の方をずっと見つめ、前世のなりたかった私を思い出していた。筋肉をつけよう、つけようと言い続けて自堕落をして、理想に近づける訳ないのに。今は生まれ変わったんだ。次こそは。


「おめゃーわっちの事好きなのか?」

「どうしたら、そんな筋肉をつくれるんでしょうか?」

「はにゃ? 旅して節約してたら、こんな身体になっただけにゃ。わっちにも、わからんにゃ」

「そうですか、お名前、お伺いしても?」

「ふふん、わっちの名前は、ブラッド・ドッグ聖都クロンダイク元第一皇女にゃ」


 胸を高々と張り飛び出す大胸筋は、目を引くものがある。

「ついでに、こっちが、剣豪メアリー」

「よろしくお願い致しますわぁ」

「よろしくお願いします。私は酒豪勇者のエルナ」

「私はただの兎、クリスタです!」

「“元魔女”の娘、ガーリン……てか、第一皇女がこんなとこいていいの?」


「母ちゃんには、出てく事伝えてあるし、皇位継承権は破棄したから、聖都はソルティとブルーに託したにゃ」

「ソルティなら、まだしも、あの姉好きが国の為になる事をするとは、思えないけど」


「ブルーは姉のしもべみたいなもんにゃ、やれと言われたら、何が何でもする様な弟。一回死ねって言ったら、本当に自害しようとしたから、止めたにゃ」

「あの犬っころなら、やりかね無いわね」

「王女お二人で話してるとこ悪いけど、移動しながら話さない?」

「どこに向かってるんだにゃ?」

「ファザーに、」

「もう、ゴブリンは居なさそうですし、私たちも付いていってもぉ?」

「いいよ、広さはあるし、談笑相手は多い方が時間も潰せそうだしね」


 道草を食ってしまったが、それはおいしい道草であった。なんとも頼りがいのありそうな冒険者の二人組。皇女は分け隔てなく接してくれる。もうすでに友達気分で話してくれる。これは楽しく旅ができそうである。


 

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