第28話 母は腐り地に戻る。そして大樹の一部へと
立つ
魔女マーベリーは、あの時すでに亡くなっていたため、謁見の間で葬式の準備を行っている。ガーリンは、木製の棺桶に入った母のそばを一晩中離れず、声がかすれ無音で泣き、疲れてもなお、寝るときですら、母の手を握っていた。冷え切った冷たい手を、温めて、返事などないのだけれど、生きて過ごしてきた23年分の記憶が思い出される。
「ママ、起きてよ……」
「ガーリン、それぐらいに、魔女様は、いえマーベリー姉さんは、立派に戦ってくれました。今ぐらいは、静かにしてあげましょう」
「嫌だ、このまま私も――‼」
「おやめください! あなたが、天国へ行かれてしまっては、魔女様が悲しみます。ここは、堪えどころです」
「そう、だよね、ところでカナリア、勇者は……」
「現在、寝室で治療を受けているかと、」
「お見舞いに行ってくる」
ずっとつないでいた手を放し、エルナの部屋へ、赴く。ドアをノックして入り、目に着いたのは、ベッドで寝てクリスタの回復魔法を受けていたエルナ。そんな彼女に近づいて、感謝の言葉をこぼした。
「ありがとう、最後まで戦ってくれて」
「ガーリン……母が亡くなったのに、私何かの見舞いにきてくれたの」
「うん、ママは死んじゃったけど、この命があるのは、皆のお陰だから、でも勇者なら、強くあってよ……」
「ごめん、私、無理やり勇者にさせられて、頼りない勇者なんだ」
「そうだったんだ……」
「たださ、私も母を亡くしているから、だけど、最後までは居られなかった。だから、ガーリン、私の事はいいから、母の所に居てあげて、」
「でも、カナリアが静かにしてあげようって」
「人生のゴールには着いたんだ、祝ってあげなくちゃ、ゴールした日の暗い夜に静かに一人なんて寂しすぎるよ」
そうだ、私も一回死んでるんだった。日本の母はどうしてるんだろう。私の葬式は済ませてるんだろうか。悲しんでるかな。茶化して笑って見送ってくれたらいいな。人の悲しんでる顔は見たくはない。死には無力
「ママにもう一回あってくる」
「いっておいで」
またも、母の手を取り話始めて、日が上がり始めるまでには、話し終えて眠ってしまった。カナリアが起こし棺は大樹奥の墓地へ送られ、その後をついていった。墓地にはエルフ族が集まり、喪主として、魔導士が登壇し挨拶をした。エルナはあの時魔導士が居なかったことを、疑問に思っていたが、それを問いただすのは、今じゃないと気持ちを押し殺した。挨拶は魔女の功績、栄誉などが話され終わった。
そして、棺桶は埋められ、母はいずれ腐り地に戻り大樹の一部となる。歴代の魔女たちもここに眠っているだろう。
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