割れやすいグラス

第26話 キスはカクテルの様に

 火柱の中、ミクストは腕だけで薙ぎ払い、姿を見せた。彼には母の温もりの熱さであり、火傷も負わせられなかった。


「邪魔しないでよ。ただ僕は至高の酒を探しているだけなんだから」


「みんな、逃げて」

「逃げられるわけないじゃない‼︎ ママが殺されてるのに」

「エルナを置いて、行くわけには、行きません!」

「魔女様の報い、ここで晴らさせてもらう!」


 全員、戦意を見せ、各々の刃をミクストに向けた。

 それと共に殺意を感じた禁酒公は、彼女らに対して抱くものは、容易く越えられる人生の壁でしか無い。


「危ないなぁ……刃を人に向けては、いけませんって、習わなかった?」

「なんで、人を殺しておいて、健常者面ができるんだよ……」

「殺したのは、魔女がそうしろって、言ったから、至高の酒が欲しければ、ウチを倒せって。でも、気づいたんだ、死人に喋る口がどこにあるのかなって」


 足で顔を踏みつけて、落胆している。その行動に黙って見ている訳もない1人の少女が、立ち向かっていた。確実な死を与えるために、脳天を狙った。


「クソアマァァァッ‼︎」

 しかし最初の、一撃は片腕をつかまれ、阻止される。予想外か、敵の強さを鑑みれば想定内か。そして、奴は、ガーリンの顔を見て首を傾げた。


「あれ、もしかして、魔女の娘? ごめんね、お母さん死んじゃった」

「詫びるなら、死んで詫びろッ‼」

 速攻して囚われているガーリン。三人は、盾にされることを恐れて、攻撃できずにいた。各々、思考を繰り返しどう救出するか思い悩んでいた。


「じゃあさ、まずは、僕に謝るべきじゃない? こんな爪立てて、怪我したらどうするの? 死んで詫びる?」


 そう言って、ミクストは、少女の腹部に渾身の一撃を与えられて、掴まれた腕が脱臼し脱力した様子で倒れた。それを、エルナのいる方角へ投げ捨てた。


「ガーリンッ!」

 転がってきたガーリンに寄り、ぐったりとして、動きはしなかった。

 何なんだよ。せっかく笑顔見れたのに……、

 その声に、反応したのか、目を覚ました。


「エル……ナ……、魔法、ぜん……、は、教えられ……、なかった……だけど、」

「大丈夫、いいから、今は休んで」

 初めて、勇者様ではなく、名前で呼んでくれた。うれしいのに、今じゃないよ。

「私が、回復の魔法かけます! カナリアさん、奴を見ていてください!」

 

「ここには、無いかな。今までの許してあげるから、ばいばい」

 酒がないと思い。謁見の間から立ち去ろうとしていた。独りよがりに。


「最後……に……キス……して、」

「こんな時に冗談言ってる場合じゃっ――」

 無理やり、後頭部を引き寄せられて、キスをされた。その時、舌まで入れられて、唾液を飲み込んだ。そのほぼ刹那ともいえる刻。体に変化をもたらした。この感覚は、至高の酒と同じ。耳が細長なり、莫大なまでに漲るエネルギー。


「ママに……聞いてたの……勇者様は……酒を飲めば……種族の……力使えるって」

「そうだけど、いろいろ疑問だけど、ありがとう」

 その光景を、去っていこうとしたミクストも見ていた。言わずもがな、奴はこちらに向かって来た。だが、カナリアが急き停止させる。


「まさか、娘を酒にしてるなんて!! いい、実に!分からなかったよ!」

「近寄んじゃねーよ、外道……」


 エルナは、カナリアの前に出て、半獣人化し、ありったけの魔力を、身体強化に費やした。そして、雷光のように駆けだして、突き出だした、鋭利な爪と憎しみと共に……


ぼとんっと、首が地面を転がっている。あっけない復讐であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る