第25話 カラのグラスにメいっぱい
今日も今日とて、同じ場所で、ガーリンの教えが始まる。魔法はすればするほど、身に着くので、いいのだけど、うざったらしい&憎たらしい言葉を聞かされながらの特訓は、気が滅入る。しかしながら、今は嫌いになっているわけではなく、しっかりとした実力もあり、失敗を馬鹿にしながらも、修正してくれたり、いい点もある。
「そんなこともできないの? ばっかみた~い!」
相変わらずの罵倒には、安心すら覚えるし、慣れてきた。
「いいでしょ、別に」
「ダメだって、私がママに怒られるんだから、ちゃんと、覚えてよね。もう一回」
現段階で習っているのは、即座に魔法を発動する動作や思考である。
「インフェルノ‼」
杖を前に倒し、激しく燃え上がる炎をイメージして、唱えて三秒後、火種と言えようかというほど、小さな火が地面を焦がした。
「ちっちゃ~い! これが本気ですか~?」
「どうすればいいか、教えてよ」
「イメージの中に、この場所は映ってる? ここに、こうしたいってイメージも大事だから、それがなきゃ、不安定な魔法しか打てないし、それなら、援護されながら、詠唱行って、無鉄砲に極大魔法打つ方が簡単」
「炎のイメージしか、無かった……」
「想像力の乏しい脳みそで、かわいそ~!」
「もう一回やるから、それで、できたらその言葉撤回して」
「いいよ~」
「インフェルノッ!!」
前回を踏まえて、その場に猛々しい炎が立ち上るのを、想像した。一秒後、鮮明にイメージした通りに炎が上がった。これには、ガーリンも、驚きを隠せない。
「フンッ……、いいじゃない」
「撤回の言葉は?」
「チッ、……ごめんなさい。さっき言ったのは、取り消します」
「こればっかりは、覚えのいい私の勝ちね」
こうして、習って、師匠に頭を下げさせることが、多くなってきている。
「これも、私の教え方が、巧かったってわけだよね!」
「そうだね、実際、分かりやすかったし」
「素直じゃん」
「言葉使いが荒いだけで、嫌いじゃないから、好きだよ、ちゃんと教えてくれるし」
「そ、そう。ふーん、」
照れくさそうに、しているのを初めて見た気がする。
「そ、そんなに、顔見なくても、いいじゃん」
「珍しい表情だったから、つい」
「今日の、とっくんはこれぐらいにして、川へ行きましょ。汗臭いの嫌だし」
「私も、ここ数日体洗えてなし」
エルフが身を清めるお風呂的な川へ、館からそう遠くはないので、二人は歩いて行った。
そこは、透き通りがよく、流れも緩やかな河川。魚もこの河川ではエルフに捕られることもないので、悠々自適に泳いでいる。撫でたり触ったりもできる。
「早く脱いで、最初は冷たいかもだけど、慣れてくると、気持ちいいわよ」
「恥ずかしいな……」
衣類を脱ぐが、大事なところは手で隠した。足先を水面に入れて温度を確かめて、入水する。すると、ガーリンがいつもの顔で、私に水をかけてきた。私も負けじと水をかけてやった。次に見た顔は、意地悪な笑顔ではなくて、楽しそうな笑顔でまたかけられた。
子供時代って、こんなに楽しかったっけと、童心が芽生える。恥ずかしさなんて忘れて、いっぱい遊んだ。時間も忘れて。
幾時か、経った。そんな頃に、館の方角から、凄まじい爆音が響いてきた。何事かと、急いで河川から服を着て館に戻る。その道中、カナリアとクリスタに出会い、爆音がなっていたという謁見の間へ急いだ。
「来るのが、遅いよな、味方って、」
謁見の間へたどり着いて、そこにいたのは、赤黒い血の溜まりに、突っ伏しているマーベリーと隣に見たこともない、男が立っていた。その光景を見た時、ガーリンは母に近づこうと歩き始めたが、エルナが腕を伸ばして止めた。放してと泣きじゃくるが、このまま、二人も失いたくはないから、決して放しはしなかった。
「君たちは、至高の酒の在りかは分かる? 探してるんだけど。この女吐かないからさ」
「名を名乗れ!! 魔女殺害を犯した咎人が!!」
激昂していたのは、カナリアもだった。
「いいよ、僕は、禁酒公カクテル支配人、ミクスト・カジョコクチェ。それで、話を戻すんだけど、酒知らない? 早く見つけないと他の禁酒公に取られちゃう」
この状況下で、私は逃げるという選択肢だけを考えていた。強くなったとはいえ、ガーリンにはいまだ勝ち得ない。コイツと戦ったところで、天に召されるのは目にみえている。
私は、クリスタとガーリンの手を握って逃げ出そうとした瞬間、あの教職者から付けられた
勝ち目のない。何も満たされていないカラのグラスに意味があるのだろうか。
――私は、奴に向かって、インフェルノを唱えた。
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