第24話 私の業

 前世だろうか、愛液を飲む機会など、そうそうあるわけがないし、この世界でも……。


「何を考えてるのか、わかんないけど、魔力あがってきたんじゃない?」

「いや、なんだか気持ち悪い」

 不調な胸を押さえて、吐き出しそうな物を手で抑え込む。すると、脳内からラミアの声が聞こえ始めた。


「天使は、純愛しか受けつけないから、体が拒否反応を起こしておるぞ」

「いたんだったら、先に教えてよ」

「何、一人で喋ってるの? 頭までイカれちゃったかな……」

 心配してんのか、貶してんのか、どっちだよ。


「いや、大丈夫――おぇッ!」

 その瞬間、滝のような流れと、びしゃびしゃと、音を立てて嘔吐した。何度も胃袋の中が綺麗になくなるまで、繰り返し嘔吐し体力を、消耗した。


「なっさけなーい。これじゃなーんにも、教えられないじゃん」

「ごめ……ん」

「ふむ、妾が助けてやろうか?」

「いや、いい。我慢できそう」

「だから、さっきから誰と喋ってるの?」


 ラミアが何か隠したくて、私に憑いてるかもしれない事を配慮して、言わないことにしたが、私の脳内を覗けるラミアは、こう返した。


「妾が取り憑いておるのは、居心地の良いだけじゃから、言ってもらって構わんぞ。」

 その答えに、それならいいかと、素直に打ち明けることにした。



「ラミアって悪魔と話してる」

「あの淵原人様と? またまた、頭くるくるぱーなのは、わかったから、ポーション飲めないなら、自身で魔力アップのとっくんをしましょうね~」


 エルフは人間と天使、ダークエルフは悪魔と人間の間で生まれた種族。ガーリンはダークエルフっぽいから、ラミアは先祖にあたる。出てきて、このガキ黙らせてくれないかなと他力本願に思っていると、私の体からラミアが現れた。


「お主の中は、妾の血も混ざっておって、快適だったんじゃがな」

「ほ、ほんもの? ラっ、ラミア様!! お会いできて、光栄ですぅ!」


 現れたラミアをみて、感服している。これが、威厳と権威というものか。打って変わって、従順なガーリンは笑顔でラミアに握手を求めた。それに応じるラミアは、和かに握手を交わした。


「まぁ。ラミア様がいたとて、教えを優しくしたりは、しないから!」

「魔力調整とは、また違ってるの?」

「それは、魔法出力の仕方。それを学んでるんだったら、同じように学べば良かったのに。」

「いや、学ぶ前にこっち来ちゃったから」

「そう、なら早速、やっていこうかしら」

「妾は、大樹の根本でまっておる。終わったら、起こしに来るがよい」

 ラミアは、大樹に寄りかかり、そのまま眠ってしまった。それお構いなしに、私たちは、魔法を学ぶ。

「でも、どうやって、魔力を上げるの?」

「そんなの、簡単よ。誰かを思い続けること。それだけ」

「祈りに近い感じ?」

「からっぽの頭でも感は、いいのね! あの子と付き合いたい。あの子と幸せになりたい。そんな感じ。一方通行の想いで十分だから」

「わかった」


 エルナは、祈るように手を握り、アリスの事を、無事を想って願った。すると、どことなく、魔力が上がってる気がした。


「ふーん、ちゃんと出来るじゃん、私の教え方がよかったのね!」

「理解力だけは、いいと思ってる」

「それを、毎日、暇なときしててね。じゃないと、勇者様、魔力量少なすぎて、話にならないから! 次は魔法の種類と属性。その他もろもろ教えるから、しっかりついてきてね」

「どんとこい!」


 それ以降、言われるがままに、実践してみたり、嘲笑われたりしながら、着々と習い、時間は日が暮れるまでになっていった。


「今日は、これで終わり、まだまだくそ雑魚勇者様だけど!」

「はいはい。次もお願いします」

「ママのお願いだからね! 明日も昼からとっくん!」

「はいよー、ラミア~~終わったよ~!」

 寝ている悪魔を呼び起こし、とぼとぼしながら、私に近づきまた取り憑いた。そんなに私の体がいいのか。


「ええ、ずるい。私もラミア様に取り憑かれたい……」

「そんな貧相な体じゃ無理かもね~!」


 そんな戯れをしながら、私は部屋に戻る。客室について扉を開けると、可愛らしく寝ているクリスタがいた。荷物も運びこまれており、疲れて眠ってしまったのだろう。私は起こさぬように、そっと隣に潜り込み、添い寝をした。

 そして、朝がきて、起きて、朝食を食べて、暇なときは祈って、昼食を食べてガーリンと学び、夕食を食べて、また祈って眠る。そのような、一日を五回繰り返した。


 自身を持って言える。強くなっていると。

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