第17話 淵原人 古より生きし者

 夕食を食べ終わり、2人は自室へ戻った。明日はいよいよエルフの森へ。

 荷物を纏めて、明日に備える。エルナは買ってきた杖を布で磨いている。


「気に入ってますね。その杖」

「まぁね、なんだか大魔術師にでもなった気分」

「あ、そうだ。至高の酒どうします?持っていきますか?」

「置いていくわけないじゃん!」

「景気付けに、一杯飲みません?」

「クリスタも好きだねぇ。勿論飲むけど」


 備え付けで置いてあったティーカップに天酒をそそぎ、頂く。やはり、いつ飲んでも美味しい。飽きない味。


「さて、そろそろ寝ましょう。朝早いでしょうし」

「だね」


ベッドに潜り就寝する。


 早朝、日の出が顔を出した頃、カナリアが起こしに来てくれた。


「起きてください。エルフの森に行きますよ」

「朝かぁ、」

「おはようございます。カナリアさん」


 手短に顔を洗い口を洗い。まだまだ眠い目を擦りながら、荷物を持って部屋を出る。カナリアを追い王宮の外で待機している馬車に乗り込む。


「それでは参りましょうか。私の故郷。エルフの森へ」


馬車に揺られて、眠気も次第に無くなってきた。


「カナリアさんは、どうして外交官になられたのですか?」


「まぁ、単純に猫とか犬が好きでなりましたね。もふもふし放題ですし。ソルティ皇女からのお誘いもありましたので」


「あの犬にも姉弟がいたのか」

「こら、失礼ですよ」


「構いませんよ。犬なのは皇子も認めてますしね」

「カナリアさん動物好きだったんですね」

「意外ですか?」

「いえ、躾とか調教とかしてそうだなと」

「しませんよ」

苦笑いを浮かべて、否定をする。


 くだらない話をしながら旅路についていると、馬車が止まる。


「おい、どうした?」

「人が倒れていまして」


 一同馬車をおり、前の方へいくと羊の角と蝙蝠の羽を生やし、足も羊の鉤爪の悪魔かサキュバスが寝ていた。


「スピ〜……グゥうぅ……」


「ほっとこう、触らぬ悪魔に祟りなし」


 足早に去ろうとしたが、クリスタが何かあったら大変だと悪魔を起こそうとする。


「大丈夫ですか?」

「んぃあ?」

 悪魔は上半身を起き上がらせて辺りを見渡す。


「なんだぁ、てめーらぁ、ふぁぁ」

「こんな所で寝てたら、危ないですよ?」

「危なかねぇーよ。淵原人に手ェ出すバカはいねぇしな。いや、1人いたか?」

「もしかしますけど、ディート・ラミア様ですか?」

「あぁ、そうだけど、何?」

「いえ、こんな所でお会いするなんて思いませんでしたので」

「もういいでしょ、いこうクリスタ。大丈夫そうだし」


 悪魔と天使。犬猿の仲と言えよう。私は関わりたくない。さっさと馬車に戻ろう。そう思った矢先。



「ん? 幼女!?」

 目が合ったその瞬間。悪魔ラミアはエルナに飛びつきこう話した。


「食われるのがいい? なぶり殺されるのがいい?」

「うるせぇ! 離せよッ‼︎」


 クリスタとカナリアが引き離そうとするが引き払われてしまう。馬車にぶつかる。


「ラミア様おやめください! 彼女は勇者様ですから‼︎」



 悪魔は紅潮させ、息を荒げる。涎を垂らし汗もじんわりとしたっている。

「勇者…あぁ、いたなぁオレをよぉ。訳もわからずに攻撃して来やがったバカかぁ……でも強かったなぁ」


 エルナは覚えたての無詠唱で攻撃しようとするも、見破られ両手を封じられる。こうなればもう導きしかない。


「酒豪の導きによって、酔いに誘わん!!!」

 詠唱とも言えるその言葉を放つが、ラミアに変化はない。

「残念、効くわけねぇーだろ? 何万年いきてきたと思ってんだぁ?」


「わかった。一旦話し合おう? ね? 死ぬのまだ嫌なの?」


 泣きながら懇願していると、何やら悪魔に効いているみたいだ。頭を抱え始めた。


[悪魔さんは私の願い聞いてくれるの? なら、ずっと旅しようね!]

「ユーロぉ、オレは……私だ……妾か……ワシか……クソァ……喰ったのは……」


 この気を逃すまいと腹部に蹴りを1発喰らわせる。油断していたからか思いの外軽かった。


「いってぇぇ……」

「こっちだって怖かったんだから、お互い様」


「嫌なもん、思い出させやがって……」

「泣脅しなら、得意だけど!? まだやるか! お?」

「やらねぇ……気分害した」


 調子に乗って挑発するが襲ってはこない。

 これはまたとんでもない奴と出会ったかもしれない。


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