第16話 礼儀知らずの兎と鳥

 昼飯を食って、部屋へ戻る。カナリアへ帰還を伝えてベッドでくつろぐ。


「下町は楽しかった?」

「すっごい楽しかった。短い時間だったけど」

「仕方ないよ。エルフの森へ行く為に、準備しとかないとだし」

「だね。」


 双方はまず、風呂に入ることにした。備え付けられた小さな大理石の浴場に水を張って、横に置いてある竈門に火を焚べる。十二分にあったかくなったのを確認し、広さ的には余裕があるので、エルナとクリスタは一緒に浸かる。


「お風呂気持ちいい……」

「ですねぇ」


 何気にクリスタと一緒に入るのは初めてだ。浴場から上がったクリスタの体をまじまじと見つめる。ちっちゃくてもふもふしている、うさぎのしっぽとスレンダーで、曲線美からなる魅惑の太ももと柔らかそうな胸と尻。


「どうかしましたか?」

「いや、綺麗だなぁって」


 前世なら私だってあった。今はないけど。


「エルナもきっと、大きくなりますよ!」

「がんばる」

「ふふ。エルナ背中流してあげるから、こっちおいで」

「はーい」


 両者、洗いっこをして汚れを落とす。こちょこちょっと子供染みた真似をしてみたりもした。また湯舟に浸かりゆったり過ごした。気分が安らぎ存分に味わったら、風呂から上がり体を拭いて服を着る。椅子に座りクリスタが唐突に歴史を話し始めた。


「エルフ族は昔、私たち獣人と争っていたの。今はそうまでもないのだけど、私たちを嫌う者がいる。だから、極力獣人ってことは話さないでくれる?」


「うん。自ら嫌われにってのもおかしいしね」

「ありがとう。もし、気づかれても、エルナは知らなかったっていってね」

「それは約束しかねる」

「つくづく優しいね」


 コンコンっと扉をノックする音が聞こえる。エルナが扉を開けるとそこには、カナリアが待っていた。


「エルナ様、クリスタ様、夕食の準備ができておりますので、よろしければいかがでしょうか」


「夕食できてるって」

「あ、いきます!」

「では、参りましょう。」


 カナリアの後をついていき、食堂へと行きついた。用意された夕食は豚肉、牛肉、鳥肉、兎肉。おい、ちょっとまて。


「同族を食えと」

「勇者様に置かれましては鳥人族ハーピーではなく天使ですので、同族ではないかと」

「クリスタは、兎だ」

「と、言われましても、その……クリスタ様は私たちが話している隙に、もう食べられておいでですが」


 早い、いつのまに。豪華な食事に体が先走ったのだろう。分からなくもない。

 関心を向けるべきか、同族を食っていることに多少は引くべきか。悩みかねる。


「エルナ、チキン覚めちゃいますよ! おいしいです!」

「はは、今行く」

多少引くことを選んだ。


「それでは、わたくしは失礼いたします。明日はエルフの森へ行きますので、準備は済ませておいてください」


「その図太さがあれば、エルフの関係も大丈夫だと思うんだけど」


「念には、念をってやつです!」

「まぁ、関係悪くなるよりかはいい、か」


エルナも席についてステーキ料理を口にする。これまた絶品。

 舌に広がる甘い油と嚙み切れるほど、優しい弾力。

次は鶏料理。豚料理。サラダ。と様々な料理を口に運びお腹を満たす。


この世界での楽しみがまた増えた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る