第12話 犬も待たせば。ボールを咥える?
「ボールを、取ってくる!」
皇子が恐らくではあるがら自身の部屋に行き、戻ってきた。お気に入りのボールであろうか、黄色い野球ボールほどの大きさの物を持ってきた。
「勇者よ、我にこれを、投げてくれ!」
王の間で突如始まるとってこい。異様なその光景だが、騎士達はいつも通りの様な対応をとっていた。
手渡されたボールを皇子の言う通りに、投げた。
「とってこーい」
適当に投げたボールは、放物線を描き、皇子は放たれたボールを追いかける。目線をボールから皇子に目を向けると、
「わん! わんわん!」
そこに皇子の姿はなく秋田犬ぐらいの大きさの犬がいる。まさかとは思いつつ、その犬が取ってきたボールを受け取る。
「ハッハッ‼︎」
「驚きました?皇子は先祖返りを、よく起こされるんですよ」
「先祖返りかぁ。なるほどとはならないかな」
と、一瞬目を離した隙に皇子は犬から人に戻っていた。
「どうだ! 勇者驚いたか!? 面白いだろう!」
「は、はい、まぁ、驚きました。ね」
これを見せたかったのか?
「勇者も先祖返りできるのか? 至高の酒どこまでできるのか。知りたいぞ!」
「そんな、無茶振り言われましても……」
想像してみる猫の自分を、しかし飼っていた茶トラを連想してしまう。するとエルナの身体は段々と小さくなり、猫化してくる。
「にゃーん!」
「可愛い! エルナ可愛い‼︎」
ものの見事にシャムトラへと変化した。猫化したエルナを抱っこして、頭を撫でる。
(やめろぉ、いや、案外悪くないかも。)
エルナはクリスタに撫でられて悪くないと、そう感じた。
「勇者様、エルフの件もお忘れ無く。それと、本日はお開きに致しましょう。お部屋へ案内します」
カナリアが、部屋を案内する。しかしながら、猫のままであるエルナはクリスタに抱かれて、ついていくのであった。
(どうやって、戻るんだろう)
「にゃーん」
「どうちたの? エルナ?」
「にゃぉん」
「元に戻るの?」
「にゃん」
「自分の元の姿を想像して、そしたら戻るはずですよ」
カナリアとクリスタが見守られながら、自分の姿を思い出してみると、徐々に戻ってきた。
「猫のでもよかったのに。持ち歩きやすいから」
「抱っこされるのは、悪くは無かったけど。こっちの方が自由がきく」
「よろしいですか? 行きましょう」
とカナリアを待たせてしまった。
どんなお部屋だろうか。王国の客室なんて、そうそうお目にかかれるものじゃない。楽しみ。
「こちらが、勇者様のお部屋でございます」
ウキウキワクワクしながら、たどり着いたのは、2人用の木造のベッドと高級そうな、テーブル。全てが木材で作ってある。ゆったりとした空間が広がる部屋だった。
「本当は勇者様お一人だけとお伺いしておりましたので、至急お二人様にしたため、準備が間に合わずこの様なお部屋になってしまい申し訳ありません」
「いいよ。木造好きだから。ここにきて謝られぱなしだし」
寛大な心に打たれ、感銘を受けているカナリア。
「それでは、ごゆっくりお休みください。お出かけされます時は一報をお願いします」
「はーい。ありがとうね! カナリアさん!」
ドアをしめ、エルナとクリスタの2人だけとなった。これからどうしようかと話し合ったが、やはり時間を持て余しているので、貰った資金で装備を買いに出掛けることにした。
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