第9話 ありがとう、今までの私

 「エルナちゃん、夕食できたよ~」

 階段下からエルナを呼ぶが、なんの返事もなく不安になり、部屋へいく。お漏らししたから、隠してるのかなとか、そんなことを思いながら階段を上がる。部屋の前まで来るとノックをする。


「入るよ、エルナちゃん」

 中に行くと横たわって可愛らしい寝顔と、優しい寝息をあげて眠っているエルナ。

「頑張ったものね」

 寝顔にキスをして、クリスタは一階に戻り、夕食を持って戻りベッド横の、机に起こさないように置く。

「お休み」

 そういい、部屋を後にした。






 あれから何時間立ったのだろうか。どうやら私は、深く眠っていたようだ。ベッドの横に夕食が置いてある。呼んでも私が、目を覚まさないから、置きに来てくれたのか。お母さんの事を、ちょっぴり思い出して、うるっと来てしまった。涙を拭いて。


「いただきます」


 クリスタが作ってくれる料理は、素朴ながらもおいしく、まさにおふくろの味。また涙が出てしまいそうになるが、堪える。


「相変わらず、おいしいな。」

 後から教えてもらおうかな。

夕食を食べ終わると、なんだか下が騒がしい。



―――—五分前

 玄関をノックする音が聞こえた。クリスタは、扉を開けると、目の前には教役者の正装を身にまとった老人、と軽武装を着た騎士の女性が立っていた。

最初に話し出したのは、騎士の女性。


「夜分遅くに、失礼する。ここはサファイア・ノベールの家で、間違いないか?」

「はい、そうですが、聖騎士様方と、神聖教の方々が何用でしょうか?」

「ええ、この邸宅にいる、天使様にお話がありまして。参りました」

 そんな邸宅だなんてと、照れながら話していると。


「すみません。お邪魔しても、よろしいですかね」

「あ、どうぞ。おあがりください。狭いところですが」

「貴様らは、ここで見張りをしていろ」

「はっ!!」


 兵士達は家の周りを囲むように見張りを、女性騎士と老人は家の中に入る。卓を囲み、お茶と菓子を差し出す。


「こんな物しかありませんが」

「いえ、お構いなく」

「それでエルナ……天使様に、何の話でしょうか」


「そうですね。エルドリッチ卿、あれを」

「うむ、」


 懐から出されたのは、エルナがここにいること、そして勇者に成ることが書かれている一冊の本であった。それは予言の書を彷彿とさせ、未来を見てきたかのように、エルナが今は寝ていること、ここに騎士や教役者が来ることが載っていた。


「あの天使様は初代勇者の、生まれ変わりで、ございます」

「エルナちゃんが。勇者?」

「はい」

「近頃、禁酒公の動きが、活発になってきておりまする。奴らは勢力を急激に、拡大しており、様々な種族が被害にあい、なんと現在三本の至高の酒が、奪われてしまっているのです」


 エルナが勇者の生まれ変わりだという確証はないが、騎士様の言うことだと、信じる他ない。


「そこで勇者様に、お力添えをと、ここに参りました」

「騎士様、エルナとは短い期間ですが、一緒に暮らしてきました。何故だか母親の様な感情が芽生えて来る時もあります。なので、余り彼女を危険に晒す事はしたくありません。申し訳無いですが、お引き取り願えませんか?」


「貴殿の意見は、尊重しうるに値するが、世の種族の危険を鑑みれば、勇者様の多少の危機も目を瞑ってもらいたい」


 騎士の発言は空言の様な気がしてならない。


「どうしたの、クリスタ」


 下が騒がしく降りてきたクリスタを見て、女性騎士と老人は膝をつき、こう言い放つ。


「我が神よりされし、先代勇者様、お迎えに上がりました」


何かの勘違いかとも思い、自身の部屋に戻ろうとすると。



「勇者様! お待ちください!」


 私はまためんどくさそうな。安泰とは、真反対の状況に身を置かれるのか。そう思った。

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