第4話 森の朕兎

 わっちん、ラビット族のラズリ

 今日こそ一人前になるべく、魔物を倒してみんなに認めてもらうっち!そんなわけで、森に入ったら奇妙な者に出会ったっち。

 鳥の羽が、生えた変な生き物だっち。


「大丈夫だっちかぁ?」

 返答はない。ただのもぬけのからだっちね!

 叩いてみたり、大声でしかも耳元で叫んだりしたが反応はなかった。

「勿体ないからもってかえるっち。今晩の飯にするっちな」


 静かな森の中ズシンと、地響きが鳴り出す。先ほどの大声で魔物が近寄って来たのだろう。


「丁度いいっちな。こいつも、狩ってかえるっち」

 姿を見せたのは5メートルはある苦魔くま。その兎に対しては余りにも体格差がある。だが

「鳥鍋と熊鍋、どっちにするっちかな」

 そんなことを思いながら、腰につけていたホルダーから、短剣を取り出して、5分の1程度の身体で苦魔に立ち向かう。唸りを上げながら猛進してくる所を、高くジャンプし背中に跨る。


「脊髄を、断つっち!」

 短剣を思い切り振り翳しかざ、神経を切り落とした。勢いを余した苦魔は、苦痛の声をあげながら、そのまま大木に激突し動かなくなった。


「ん……」

 激突した音で目が覚めて、現状を把握しようとした。まず、横たわっている大きな熊のような生き物が、そしてその熊の贓物ぞうもつを剥ぎ取るウサギの耳をはやした茶髪で短なツインテールの小柄な少女。見るに堪えない状況ではあったが、冷静なままだった。



「おきたっちか」

 後ろを振り向き、血みどろのまま、エルナへ近寄る。しかしながら、エルナはその光景をみて、イノシシを捌くお爺ちゃんを思い出していた。ふと、我に返り兎に場所を尋ねた。

「ここは?」

「ここは、森っちね!」

「そう」


「そのまま寝ててよかたっち、夕食分、食べれえなくなったっちな。」

「なに、私食べられそうになってたの?」


「何でもないっち。それによく見たら肉付きわるそうだっち」

「失礼な兎」

「謝るだっち。ごめんだっち。でもあんちゃん珍しいから、みんなに見せたいっちな。村までくるっち」


 地上のことなんて知らないから、村の人に聞いてみようかな。こんな子ばかりじゃないだろうし。


「いいよ」

「よかったっち。来なかったらはく製にしてたっち」

 判断は正しかった。今私にできる事は、この兎を蹴り飛ばすぐらいのことだから。   

 裸体一貫で刃物を持った不審者に真っ向勝負を挑めるのは、霊長類最強だけであろう。




 エルナはそばに落ちていた天酒を持ち、兎の後ろを歩き不安ながらも、ついていって、道中デカい虫に集られたり、かわいい小動物に癒されたりしながら、村へと向かった。やはり見るもの、全部が知らない化け物ばかりで、探求心がわいてくる。子供の頃、田舎に居たときトンボを追いかけていた時の様な懐かしい感覚。


「ここがわっちの村だっち」

 森を抜けた先は、少人数ながらも賑わっている兎の村。兎の耳をつけた人たちに挨拶を交わすが、目を逸らされたり、無視されたりした。そして案内されるうさぎの家へと。


「みんな帰ったっちよ~」

 扉をあけ待っていたのはラズリによく似た小さな子。


「おねぇちゃッ!」

 その小さな子はいきよいよくラズリに飛びつき倒れこむ。


「ただいまだっち」

「ウサギの妹?」

「そうだっち! かわいいだっちよな~」

「このひとだれ?」

「羽の生えた鳥人間だっち。珍しいから連れてきたっちよ」

 不思議そうな目で見つめてくるかわいい兎の妹。私も妹欲しかったな。


「よろしくね!」

「たべれる?」

 あれ、この子も私のこと食物って思われてる?


「食べれないよ」

「そんなことより早くあがるっち」

「きてぇ!」

 妹に手を引っ張られて家にあがる。

 石畳の廊下をわたり茶間に案内される。


「ここで、ちょっと、まってて! おかしもってくる~」

「わっちんは、みんなを連れてくるっちから、ゆっくりしててっちなー」


 上がったは、いいものの何故か緊張する待ってる間、何しよう。

もしかしたらこのまま焼き鳥にされるオチか。


不安ながらも兎を待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る