第30話 四人そろって
「ということで発見しました」
「わぁ……ナイトくんのほっぺに、きれいなモミジが……大丈夫?」
俺はふっと笑う。
「男にとっちゃ勲章だよ、これは」
「本当によ。身分差を考えれば実刑処分にしても何ら不思議ではないのよ」
「誇りにします」
「可及的速やかに忘れなさい」
だいぶおこな班長殿である。波風を立てないために、静かにしておく。
俺たちは結局集合場所ではなく、ミニン班長の隠れ家に集まっていた。俺が班長を見付けた小さな家である。悲鳴が響き渡ったからね。みんなに見つかったのだ。
それでなし崩し的に、何が起こったのかを説明していた、という運びだった。俺は誠心誠意謝り倒す所存だ。
するとキュアリーが文句をつけてきた。
「ナイト様? 何故他の方とはこういうことが起こるのに、わたくしには起こらないのですか?」
「発言で十分量に達してるからじゃね?」
「わたくしは慎み深く振舞っておりますので、そのようなことはございません」
「キュアリーの価値観ずっとぶっ壊れてんな」
「あれほど激しく、丁寧に壊されましたから……」
「しっとりするな」
キュアリーのことはどうでもいいのだ。俺は班長の格好を見る。
ミニン班長は屋敷から出てきた時と同じように、質素な仕立服を着ている。先ほどのゴスロリに比べるとかなりおとなしい。
あと明らかにいつもよりも背が小さい。裸足だからか。慌てて着替えた結果、靴がその辺に散乱している。
「……班長、何か小さくないですか?」
「っ!」
やべ、口を滑らせてしまった。
ギロリと睨んでくるミニン班長。俺は背筋をピンと伸ばす。
「身体的な特徴を指摘して大変申し訳ございません! ただ一つ伝えたいのは、女性におかれては低身長も美徳であるということです!」
「女にとってもアタシレベルのチビは笑われるのよ! だからいつも厚底靴を履いてるのっ!」
マジで? 可愛くない? ちっちゃくて。
「っていうかそれで言ったら年齢にもよるんじゃ? ミニン班長って何歳なんですか?」
「14歳よ」
「あっ、年下……」
「何よ」
俺はジーニャ、キュアリーと視線を交わす。俺たちは全員15歳だ。とりあえず肉体年齢は。っていうか14歳一人であんなキツイ任務こなしまくってたの? ヤバない?
「ちょっと小柄とは思いますけど、全然問題ないですよ。さっきのゴスロリっぽい服合わせとかちゃんと可愛かったですし。そもそもあの姿で出てくると思ってたのに」
「でっ、出られるわけないでしょうッ!? あ、あんな姿で」
そこに食いつくのが女子二人だ。
「ご、ゴスロリ……っ? み、見てみたいです、ミニン班長……!」
「いつもピシッとした着こなしをされていますし、可愛らしい班長様は見てみたいですね~」
「え……?」
この場の全員から肯定され、常識の揺らいでいる顔になるミニン班長。「え、で、でも」と自信なさげに言う。
「お、おかしく、ない……? あ、アタシみたいな女が、あ、あんなカワイイカワイイした服を着るの……」
「いやめっちゃ似合ってましたよ。むしろいつもの堅苦しい騎士服の方が見てて堅苦しいです」
「メアンドレア従騎士、あなたここぞとばかりに好き勝手言うわね」
「恐縮です」
「褒めてないわ」
「で、でも、ミニン班長のゴスロリ姿は、見てみたい、です……! わ、私もちょっと、興味があって、その、えへへ……」
「わたくしも、帝都では奇抜な服が流行っているのは知っていましたから、どんなものかは興味がございます。あまり教会の教義からすればよくはないのですが」
ジーニャとキュアリーからも援護射撃があり、ミニン班長は足元がぐらついている。
「で、でも……あ、あんな服誰も認めないわよ。あんな媚び媚びの、みっともない、恥ずかしい服……」
「ミニン班長」
俺は柔らかい声でそっと語り掛ける。
「好きなものを卑下してはダメです。自分にも他人にも、正直に生きることです。……好きなんですよね。ゴスロリ。特に黒系のが好きなんですよね」
「う、ううう、ううぅぅぅう……!」
「であれば、着ればいいんです。そして『これが自分だ』と胸を張ればいいんです。幸い、ここにはそれを馬鹿にする人間はいません」
「で、でも、は、恥ずかしい……」
班長は顔を赤く染めて、弱気に震えている。
「な、何か真っ赤に震えるミニン班長に話しかけるナイトくん、いかがわしい……」
「ミニン班長、ちょっとそこ変わっていただけますか? わたくしもナイト様に湿度高く『これを着て欲しいんだ……』って囁かれたいです」
「お前ら俺が真剣に説得してるの邪魔するのやめてくんね?」
切実に足を引っ張られている。俺別に見たいだけで勧めてるわけじゃないからな?
そう、こういう風に『自分をさらけ出せ』と言っているのは、ちゃんと狙いあってのことだ。
すなわち―――魔女に堕ちることの回避策。
魔女とは他者からの拒絶の中に生まれる、絶望の落とし子だ。堕落を是とする悪魔のみが、手を差し伸べた結果の産物だ。
それはつまり、肯定者が近くに居ないことが大きな理由となる。人間、誰かが認めてくれるならそう簡単には絶望しないものだ。逆に一人もいなければ―――
その苦しさは、知っている。俺とて、一度は屈した。
だから俺は言う。
「ミニン班長、見せてくださいよ。『公私混同しない』とか寂しいこと言わないで、可愛い格好で一緒に遊びませんか?」
「わ、分かったわよ! 着る! 着ればいいんでしょう!? そこで待っていなさい! もう!」
「やったー」
ガタッと勢いよく立ち上がって、俺が蹴破った扉の先にミニン班長は向かった。それから、バタン! と勢いよく閉じられる。
その様子を見送ってから、俺は一言。
「班長って全然クール系じゃないよな」
「クール系不器用キャラだと思ったけど全然違かったね」
「第一印象って怖いですねぇ……」
とか何とか適当なことを話していたら、キィ……と自信なさげに扉の開く音が聞こえる。
そちらに視線をやって、俺は改めて、ちょっと驚いてしまった。
そこに居たのは、まさにお人形さんともいうべき少女だった。
小柄で、灰色の髪をリボンでツインテールにし、先ほどのゴスロリを暗くなり過ぎないように、ピンクなどのガーリーな色味を足して、今風にまとめている。
「おお! いいじゃないですか! 可愛いですよミニン班長!」
「わぁ……! か、可愛い! 可愛いです! 奇麗……」
「ふふっ、可愛らしい格好ですね。よくお似合いですよ、班長様」
「う、うう……。や、やめて……そんなに褒めないで……」
照れ照れでもじもじするミニン班長に、俺は少し考える。こういうファッションをどこかで見たことがあるような気がしたのだ。それでしばらくみんなで褒めてから、気付いた。
「あ、これが噂の地雷系ファッションか」
この人地雷要素多くね? という言葉は、俺はひとまずこの明るい雰囲気においては飲み込んでおくことにしたのだった。
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