第21話 入団

 結局、何故かキュアリー含めた三人で爺様が確保した宿舎に居を構えることになった。


 汽車の中、起きたジーニャにキュアリーを紹介するのは非常に骨が折れた。理解が非常に難しい間柄だ。


 だが、そこから『これからナイト様のシモベとしてよろしくお願いします』と言うキュアリーをジーニャに受け入れさせる方が、さらに骨が折れた。もーポキポキ折れた。


 何せジーニャはコミュ障。新しく友人を作るのも苦労するのに、相手がこんなイカレていたらなおさらという話だ。


 が、やってのけた。


 その努力は割愛するが、とにかく俺はやってのけた!!!!


 そこからも大変だった。ジーニャが帝都の人ごみを前に泡を吹いて失神したり、キュアリーが急に俺たちと同じ宿舎がいいと言いだしたり、それで爺様を説得したり。


 そして深夜、俺は帝都到着初日に発生する厄介ごとの全てを片付け、新しいベッドに倒れ込んだ。


「死」


 死んだように眠ったさ。それはもうぐっすりと。






 そんな超大変な初日を乗り越えた俺を迎えたのは、翌日の入団式だった。


 入団式は粛々と行われた。俺は二度目なので、真面目な顔をして団長の話とかは聞き流していた。ミラージュ団長記憶よりだいぶ若いわ。懐かしい~。今三十手前くらい?


 それから、当日から早速訓練が始まった。ずっと走ってた。ずっと走ってた。本当にずっと走ってた。


 俺はある程度鍛えていたのでヘロヘロになるくらいで済んだが、全然鍛えられていないジーニャはぶっ倒れて目を回していた。キュアリーも瀕死だったが何か興奮していた。怖い。


 そんな風にして、淡々と走らされるだけ、筋トレさせられるだけ、みたいな日が一週間続いた。


 筋肉痛との戦いだったが、一週間で見るからに体力がついていた。悪夢となった一周目はそれどころじゃなかったが、今では随分と練られたカリキュラムだったのだと気付いた。


 その過程で、俺の肉体が十分なラインまで成長したのだろう。不意に俺は、第三の魔法を覚えていた。


「早いな……。このまま第四の魔法まで習得したいが、流石にダメだろうな」


 敵の絶望が、神の定める基準には達していないだろう。ひとまずはこのまま、俺の基礎能力を伸ばしていく他ない。


 それからも基礎訓練が続いて、一ヶ月が経った。キュアリーもだいぶ俺たちに馴染んできて、接しやすくなった。ただ、「そろそろ様付けやめないか?」と言ったら泣かれた。


 その頃からだろう。


 何となく、訓練中に違和感を抱くことが多くなった。


「やっべー足が滑ったー」


「おおっと」


 俺は走っている中で他の訓練生の足に引っかかり、危うく転ぶところだった。俺は体勢を立て直してから、「ごめんな、足大丈夫か?」と尋ねる。


「……チッ! 平気だよ!」


「……ん? 何だ?」


 俺は首を傾げる。何だこいつ感じ悪いな。


 しかし周りを見ると、何となく冷たい視線が集まっている。んー? 何か妙だな。


 一つ気付けば、そう言ったことが常日頃から頻発していることに気付く。


 例えば物がなくなりやすいとか。


「ん? アレ。剣がない」


 更衣室のロッカーで、俺は首を傾げていた。仕舞っていたはずの剣がない。騎士団からの支給品なので、なくすとマズい奴だ。


 そこで、声が掛かった。


「おーい、メアンドレア。慌ててどうしたよ。もしかして~、支給品の剣、失くしたとかじゃねぇよなぁ~!」


 ギャハハと笑う同期数人。俺はチラと見て、笑顔で駆け寄った。


「ああ、どっか転がってたのを拾っといてくれたのか? ありがとな!」


 彼らが後ろ手に持っていた剣をしゅるりと俺は回収する。すると同期たちは「えっ? はっ!?」と慌てだした。


「ん? どうかしたか?」


「……なんでもねぇよ!」


 何故か怒って歩き去る彼らに、俺は「ありがとな~」と手を振りつつ、何かあいつら感じ悪いな、と思っていた。


 これだけではない。


「おい! メアンドレア。お前、平民の出らしいな」


「ああ、そうだぞ」


「俺は騎士の息子だぜ。だから、お前は俺の言うことを聞かなきゃならないんだ」


「お? 何だ、フリか? いいぞどんとこい」


 俺は同期との絡みが少なかったので、ちょっとテンション高めに応じる。するとそいつは妙な顔をしてから、咳払い。


「良い心がけだな。じゃあ今すぐ有り金全部よこせ」


 俺は吹き出した。


「アッハハハハハハ! 何だよ盗賊かよ! いや、笑わせてもらったわ。騎士ってやっぱ貴族だから、そういうウィットも教えてもらえるのか? 教養って感じだな」


「え? いや」


「まさか騎士団で、騎士の息子なんて立派な出の人間がカツアゲする訳ないもんな。面白かったよ。またネタ思いついたら披露してくれよ!」


「お、おう……」


 俺が褒めれば褒めるほど、騎士の息子は小さくなっていった。俺はキョトンとするが、その後に用事が控えていたので、「じゃな!」と手を振って別れた。


 そういう小さな違和感の積み重ねに、俺はもしやと気付いた。


「俺……イジられキャラって奴なのかもしれん」


「な、ナイト様……。恐らくですが、違うかと……」


 たまたまその場に居たキュアリーにそんな話をすると、珍しくキュアリーは困ったような微笑で言った。


「え、でも割とみんなから絡まれるし、俺のことをちょっとイジってから優しくしてくれるし、イジられキャラじゃね?」


「優しく……? どこがですか?」


「剣拾ってくれたり、ギャグ披露してくれたり」


「そ~……ですねぇ~……」


 キュアリーは渋面で微笑みを傾ける。珍しく歯切れの悪い物言いだ。


「その、一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ?」


 俺が促すと、キュアリーは真剣そうに聞いてくる。


「前回の騎士団では、このような状況ではなかったのですか?」


「前回は村が全滅して、そのまま騎士団に移ったから、壮絶すぎて誰も話しかけてこなかったんだよ」


「な、なるほど……」


 だからちょっと嬉しいのだ。それでなくとも人間好きな俺だから、もっとちゃんと仲のいい同期ができないかなーなんて考えている。


 だが、そんなことを伝えると、キュアリーは目を伏せて言った。


「では、恐らく今日の帰宅後に、あまり嬉しくないお話をすることになるかもしれません」


 俺は首を傾げるも、どんな話をされるか分からず、不安を抱えながら宿舎に帰った。


 そして俺は、驚愕した。


 宿舎ではジーニャが、「もう騎士団行きたくない~!」と騎士団への出勤拒否を訴えていた。

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