第18話 騎士団の話
騎士団、というと中々敷居の高い組織のようなイメージがある。
では実際にどうか、という問いに対して俺が一言で言うならば、こうだ。
「騎士団ってのは、俺たちのやってた訓練の集まりを上等にしたようなもんだ」
村の訓練では、爺様が教官を務めて、ガキどもが訓練に没頭していた。成長すれば青年団にそのまま入り、場合によっては森まで足を踏み入れて魔獣を狩ったりもする。
「やることの基礎は、正直そのままと言っていい。訓練を積み重ね、有事に備え、そして戦う。人を相手取ることもあれば、魔獣、魔人も狩る」
魔人被害は帝都近辺にはこの数十年出ていないが、騎士団だけは平和ボケしていない。場合によっては他国の魔人被害に出張ったりもするから、魔人はその時点で明確な敵だ。
だから、魔人の情報を集めるならば騎士団という選択になる。騎士団が、魔人討伐の最前線なのだ。
「じゃあ、違うところは……? 同じではないんでしょ……?」
そりゃな。
「違う点を強いてあげるならば、そうだな。貴族の子、騎士の子、あと教会から派遣される奴なんかが多い」
「ふぅーん……。育ちがいい人が多い、の、かな?」
「そうだな。平民の身分ではなかなか接することが出来ない人が結構いた」
よく覚えてないけど。訓練生期間が終わって実活動が始まってからの方がずっと印象に残っている。死闘続きだったんだよな。無限に戦ってた。
ジーニャは俺の話を聞いても、「ふーん……」とまだ顔が晴れない様子だ。俺は、ワクワクするような話といえば、と考える。
「そうだなぁ……、あとはほら、有名人が結構いるぞ。団長、副団長なんかはジーニャも知っての通り」
「私そういうのはちょっと分かんなくて……」
「でもこの二人、メチャクチャ強いぞ」
「詳しく」
ジーニャの目の色が変わる。あ、やっぱこいつ基本戦闘好きだよな。
「ミラージュ団長は反射魔法の使い手でな。基本的に勝てる奴がいないんじゃないか、って言われるような人だ。物理攻撃魔法攻撃他諸々、全部跳ね返せる」
「新聞でよく特集組まれてるよね。顔もカッコよくて……恐れ多いから近寄りたくないというか」
「自虐スイッチを入れるな」
俺はジーニャの額を押して自虐スイッチを切った。「あう」とジーニャは目を瞑る。
「何が強いって隙が無いんだよなこの人。普通の攻撃効かないし。一種の無敵に近かった」
「そんなに強いんだ?」
「強い。本当に強い。ドラゴン単独で狩ったとか全然序の口」
「すごいねぇ~……。戦ってる様子、見てみたいな……」
ワクワクした様子で言うジーニャ。でも最終的にはジーニャのが強くなるからな。末恐ろしいわこいつ。何であの強さで伸びしろがあるんだ。
「ケイオス副団長も強い……っつーかしぶといぞ。確率魔法っていう、俺の夢魔法と同じくらい珍しい魔法の使い手なんだが、どんな場所に行かされてもケロッと帰ってくる」
「副団長さんもたま新聞で見るよね。毎回奇跡の大脱出って書かれてて、変な人だなーって思ってたけど」
「いや、変な人だぞ。最高難易度の任務に単独で行かされて、『いやぁ~死ぬかと思ったよぉ~』って言いながら無傷で帰ってくる」
火山口に落ちても、ダンジョンの深層に飛ばされても、伝説級の魔獣に襲われても、無傷で帰ってくるのだ。ただし服はボロボロ。女性なので目のやりどころに困る人だった。
「こういう有名どころでなくとも、多種多様な実力者が集まる組織だから、飽きることはないと思う。面白い魔法だと、確か地雷魔法なんて言うのも居たぞ」
「地雷魔法!? 炎魔法じゃなくて?」
「違うらしいんだよなぁ……。地面に爆発する魔法を設置するんだと」
「それは……面白いね。どんな戦い方するんだろう」
ジーニャはワクワクした面持ちで言う。どうやら期待感が不安を上回ったらしい。
「ま、その分実力主義なところもあるけどな。それでもジーニャは強いし、俺もほら」
腕まくりして、成長した魔法印を見せる。するとジーニャは「わっ! ナイトくんすごいっ!」と目をみはる。
「もう新しい魔法覚えたの!? えっ、ま、魔法って普通、五年に一度くらいしか成長しないんだよね……? ナイトくん、この数週間でもう……?」
「まぁ俺は前回の記憶をたどってるから、そりゃ成長は早いよ」
魔法印は、祝福する神ごとに成長条件が違う。俺の夢魔法の場合は、俺自身の成長と、もう一つ条件がある。
敵の恐怖、絶望。
勝ち誇る敵を絶望の底に叩き起こし、恐怖に悲鳴を上げさせる。それこそが俺の魔法印の成長条件だ。それが分かって、俺は夢魔法と言うより悪夢魔法だろと理解した。
村での死闘は、その条件に無事合致したようだった。今は、俺の身体の成長に合わせて得られる範囲で魔法を会得しているのだろう。
騎士団での訓練次第では、もう一つくらい行けるか。そんな事を思いながら、俺は話を戻す。
「この通り、俺たちは強いから、騎士団じゃあ注目の的だ。みんなからチヤホヤされるはずだぞ」
「ち、チヤホヤ……?」
「そうだ。チヤホヤだ。不安がる必要はないぞ」
「……」
ジーニャは首を傾げ、何か吟味する。それから俺を見て、言った。
「チヤホヤは、その、……ナイトくんがしてくれるから、他の人はいいかな……」
「お前そんな可愛いことばっか言ってると取り返しつかなくなるぞこの~~~っ!」
「キャ~~~~!」
俺がジーニャに掴みかかって頬をもにもにすると、ジーニャはわざとらしく悲鳴を上げて、嬉しそうにされるがままになった。
そんなやりとりをしながら汽車に乗ること数時間。
帝都までの道のりは長く、俺たちは段々話すこともなくなってきて、各々で好きなように振舞っていた。
俺は本を読み、ジーニャは口を開けてスヤスヤと眠っている。途中までは肩を貸していたのだが、途中で汽車の揺れで反対側に倒れてそれっきりだ。
「ジーニャの寝顔間抜けだなぁ」
ちょっとよだれを垂らして、実に心地よさそうに眠っている。俺は前の駅に汽車が停まった時に買った本を閉じて、「俺も寝ようかね」と足を組んだ。
その時だった。俺たちの座っていた中級車両の個室に、扉を開ける者が居た。
「……ん?」
俺は警戒と共にそいつに視線をやった。そして、目を見開く。
それは、美しい少女だった。真っ白な服に身を包みながら、十字架のロザリオを首にかけている、金髪の少女。
恐らく、同い年くらいだろうか。十字架は教会関係者の証。年ごろを考えるに、派遣先での奉仕を命じられた孤児とかだろう。
少女は、口を開く。
「あ……すいません、他の席が埋まっていて。ご迷惑でなければ、お邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……そんくらいなら、構わないけどさ」
「ふふ、ありがとうございます」
柔和に微笑して、少女は俺たちの向かいに腰かけた。俺はその容姿に、何か既視感を覚えながら、その動きを注視する。
少女は荷物を荷台に積みながら言った。
「にしても、わたくしが言うのも可笑しいですが、お若いお二人ですね。……もしかして、騎士団の訓練生の方ですか?」
「へぇ? ってことは、そっちも」
「はい。今年からお世話になることになりました、キュアリーと申します」
朗らかに笑う少女に、俺は少し気を抜く。妙に馴れ馴れしい奴だなと思ったが、そうか。俺たちが自分と同じ立場であると見抜いての言動だったか。
「じゃあ、同期ってことになるのか? よろしくな。俺はナイト。そっちで寝てるのはジーニャだ。おい、ジーニャ」
「ああ、起こしてしまうのは申し訳ないですから、そのままで構いませんよ。それに、その前に少しばかりお話したいことが」
「ん? 話?」
「はい」
頷いて、俺の真向かいに腰を下ろすキュアリーという少女。彼女は俺をしばし見つめて、「あぁ」と妙に艶やかなため息を落としてから、頬を紅潮させてこう言った。
「まさか、こんなところでお目に掛かれるとは思っておりませんでした。光栄の至りです。―――悪夢の勇者、ナイト・メアンドレア様」
その瞬間、俺の脳裏に様々な光景が廻った。
悪夢の勇者。前回の、一周目の、『悪夢の未来』に俺が呼ばれた異名。今のこの世界で誰も知らないはずの呼び名。『未来を知っている』という知られてはいけない情報。
何故知っている。何故俺に近づいた。何故、何故、何故。
拷問してでも、聞きだすしかない。場合によっては、その息の根も。
俺は、動く。
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