青年と夜

 ─❆─


 その後、少年が寝たのを見届けた青年は、ゆっくりと体を起こした。身体の節々が、痛む。なんだか全体的に、体が怠い。しかし、そんな状態はもう慣れてしまっている。今更、そんなことは気にするようなことではない。

 少年を起こさぬように立ち上がると、キッチンまで歩いていく。……一歩踏み出すたびに、息が切れる。だが、気にせず歩き続けて。やがて辿り着くと、コップに水を注いで、その冷水を、喉に流し込む。

「……けほっ、」

 そして小さく咳払い。コップをシンクに置いて、部屋に戻るために歩き出し。

 無駄な動きをしないように、端的な、もはや作業の様に。

 息をする。

「んんん……」

 部屋に戻ると、少年が小さく呻いていた。だから青年は少年に近づき、その横に跪き、その頭に……手を乗せる。

「……おとうさ……おかあさ、ん……」

 少年の寝言に、青年は微笑む。そして、頭に乗せたその手を、ゆっくり、優しく……動かして。

 撫でて。

「……大丈夫だよ」

 そう、呟いた。

 ……外では、ごうごうと、雪が音を立てている。昨日までは、あんなに頬を撫でるように、母が子を抱きしめるように、優しく降り注いでいたというのに。

 今は、怒り狂った、制止を聞かない獰猛な獣の様だった。

 がたがた、雪が扉を、窓を、叩く。ここをこじ開けようと、中に入って、侵食してしまおうと、企んでいる。

 だから青年は、少年の横に寝転ぶ。そして、少年を抱き寄せて。

 骨と皮ばかりになってしまった自分とは違い、少年には、確かな肉がついていた。温かくて、健康体そのもの。……いっぱい、おいしいものを、食べているからか。青年は思い出して、小さく微笑んだ。

 そして青年は目を閉じる。共に夢の世界へ──落ちていく。


 ─❆─

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