おやすみ
おじさんといっしょにおふろに入ったあと、おじさんの用意したふとんに入って、ぼくたちは、もうねれるよ! って感じになった。
おじさんは、うとうとするぼくのとなりにいてくれた。まだねたくない、と言ったけど、早く寝ないとだめ、なんて言われちゃった。
「……ケチ」
「ケチじゃないよ。だってたくくん、眠いでしょ?」
「……そうだけど」
今日もいっぱいあそんだんだ。本当なら、この時間にはもうねてる。だってつかれて、かってにスーッって、ゆめの中に行っちゃうんだもん。
でも今日はちがう。今日はおじさんの家にいるんだもん。今日くらい、ちょっと長くおきてたい。
こうしてよこになってるだけだとすぐにねちゃいそうだったから、ぼくはとにかく何かを話そうと、口をひらいた。
「……さっきおじさんがのんでたくすり、何のくすり?」
ぼくのしつもんに、おじさんはおどろいてるみたいだった。何にも言わないで、ただちょっと、目と口を見ひらいていた。
「……見てたんだ」
「? ……見てたよ」
「たくくんは、何の薬だと思う?」
「え、うーん……かぜのくすり、かな……」
「じゃああれは、風邪の薬だよ」
「ええっ、そんなのアリ!?」
「はははっ」
ぼくがおどろいて体をおこして、おじさんは思いっきり笑っていた。おじさんの、そんな、おとうさんみたいな、かおいっぱいの笑かおを見るのは……はじめてだった。
「本当のことを言ってよ!」
「ええ、でも、間違ってもないから」
「ぜったいそんなことないじゃん!」
「僕は嘘は吐かないよ。嘘吐いたら、針千本のーます。……でしょ?」
「……そうだけど」
でもなんだか、本当のことを言われたような気がしないんだ。ぼくはおじさんのかおを、じぃっと見つめる。……おじさんの目は、ちょっとキラキラしていた。もっとよく見ると、おじさんの目の中に、何かまあるい、白い光がまっている。しんしん、しんしんと、おどってるみたい。
雪だ。
ぼくはそう、気づいた。
おじさんの目の中に、雪がふっている。
「……あまり見られると、照れちゃうな」
するとおじさんが、少しかおを赤くして笑う。そう言われると、何だかぼくもはずかしくて、ぼくはおやすみ! とさけぶ。そして思いっきりふとんをかぶった。
ふとんのそとから、おじさんの、わっ、というこえが聞こえて、でもすぐに、おやすみ、と言われた。
ゆっくりと、なんだか、消えてしまいそうで、でも、とても、あたたかいこえだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます