ごはんとおふろ

 おじさんの作ってくれたシチューも、とってもおいしかった。ちょっとさむかったけど、シチューを食べたあとは、あついくらいだった。

 いつも作ってくれるおかあさんのシチューとちがって、おじさんの作るシチューは、ちょっとあまかった。でもおじさんがいっしょに出したパンといっしょに食べると、シチューはあまくて、パンはちょっとしょっぱくて、いい感じになってた。

 シチューはぜんぶ食べたけど、まだおなかがへってると言ったら、子供の食欲はすごいな、なんて言って、おじさんのシチューをくれた。そして、あまったパンをやいてくれた。サクサクしていて、これもおいしかった。

「おじさんは? おなかへってたんでしょ。ぼくにくれて、よかったの?」

 もう食べちゃったから、いみないと思うけど、ぼくはおじさんに聞いた。するとおじさんは、ぼくのあたまをなでて。

「いいんだよ。僕は、あまり食べられないから」

 そう、言った。

「食べないと、いっぱいうごけなくなっちゃうって、おかあさんが言ってたよ」

「そうだね、でも僕は、食べても……あまり、意味がないんだ」

「なんで?」

「……説明が、難しいなぁ……」

 おじさんはぼくのしつもんに、ちょっとこまってるみたいだった。こまらせるのは、よくない。やっぱりいい、と言おうとしたけど、その前におじさんは言った。

「……たくくんは、風邪を引いたことは、ある?」

「うん、あるよ。……すごくあたまがあつくて、ぽーとして、元気にうごけなくて、いつもみたいにできなくて……すごく、こまるんだ」

「そうだよね」

 おじさんはやさしいかおで、ゆっくりうなずく。そして、また口をひらいた。

「その時さ、美味しいものもあまり食べられないでしょ? いっぱい食べたいのに、食べると、吐いちゃって」

「うん、ぼくもねつを出すとはいちゃうんだ。すごくくるしい」

「僕もだよ。……僕はね、いっぱい物を食べ過ぎると、そんな風に吐いちゃうんだ」

 おじさんの言ったことに、ぼくは首をかしげて。

「……おじさんは、ずっとかぜを引いてるってこと?」

「うーん、そういうのじゃないんだけど……やっぱり難しいね」

 けっきょく、おじさんの言うことはわからないままおわっちゃった。でも、おじさんがおいしいものをあんまり食べられなくて、かわいそう、ってことはわかった。

「まあ、そんな風に思っておいて。……それで、次は、お風呂に入ろうか」

「うん!」

 おじさんがそう言って、ぼくのあたまの中は、「ごはん」から「おふろ」に変わる。外はさむいから、おふろに入って体をあたためなくちゃ!

 おかあさんも、「体を温めて、風邪を引かないようにしないとね」って、言ってたもんね。

 じゃあちょっと待ってね、と、おじさんが言う。

 そしておじさんは、すごい数のくすりを出した。水をコップに入れると、それをぜんぶいっしょに……ごっくんと、のみこんで。

 ぼくはそれを、じっと見つめていた。

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