おおゆき

 今日も雪がふってて、ぼくはおじさんの家にいた。

 でも今日は、いつもとちょっとちがった。今日はなんだか空が白い。いつもはおじさんのニワ、たくさんのお花が見えるのに、今日は雪で見えないや。

「大雪だね」

「おおゆき」

「うん。……窓閉めようか。こっちおいで」

 おじさんに言われたとおり、ぼくは中に入った。おじさんは両足でふんばってまどをしめて、まどのちかくにあるいすも、すごいかおでおして、中にいれていた。

「ふう……疲れた……」

「おじさん、よわいね」

「そうだね……」

 はあ、はあ、と、おじさんは息をしてる。まるで走ったあとみたい。このいす、そんなに重いのかな?

「……この雪……帰るのは、難しそうだな……」

「え? ぼく、家帰れない?」

「かも」

 ぼくが聞くとおじさんはうなずく。そんな、と思ったけど、ぼくじゃない家に夜までいれるかも、ということに、ちょっとドキドキした。

「ぼく、おじさんの家にいる!?」

「え、何で意気揚々としてるかは分からないけど……たくくんが、大丈夫なら」

「だいじょうぶ!!」

 ぼくはさけぶ。そりゃ、おかあさんと会えないのはさみしいけど、でも雪がどっか行って、たいようがかおを出したら、きっと帰れるからね!!

「おじさんち、とまる!!」

「そっか……じゃあ、たくくんの家に電話しないと」

 そう言っておじさんは、ぼくにみょうじを聞いた。そう、ぼくはさかもとたくみ。

 おじさんは大きな本を出すと、それをめくっていった。坂本坂本……とつぶやいて、なにかを見つけたみたい。じゅわきをつかむと、だれかにでんわをかけてるみたいだった。

「……あ、たくみくんのお母さんですか? ……ええ、はい、そうです……。……はい、あの、大雪で、ここを一人で帰らせるのは危ないなと思い……僕が送るのも……お恥ずかしい話、難しいので……。……はい。たくみくんもこちらにいても平気だと……。……ええ、明日の朝には止むと思いますから、それまでは、きちんとこちらで安全を確保しますので……はい、任せてください。……」

 おじさんとおかあさんは、なんだかむずかしい話をしてるみたいだった。ぼくには、その会話の意味は、よくわからなかった。

 でも、おかあさんと話せる。それはわかって、ぼくは、おじさんのそばに行った。

「ぼくもおかあさんと話す!」

「え? ……ああ、そうだね。……あ、はい。たくみくんが話したいと……今、代わりますね」

 そう言うと、おじさんはぼくに、じゅわきをわたしてくれた。まるでおかあさんのせなかのように、丸まった、雪のようにまっ白なじゅわき。まえにやってみたみたいに、ぼくはじゅわきを耳にあてた。

「……おかあさん」

『……たく』

 聞こえたおかあさんのこえは、ちょっとだけ、かぜを引いてるみたい。でもぼくは知ってる。これはでんわするときだけのものだ。

「ぼく、ちゃんといい子にするよ!」

『……ええ、おじさんに、迷惑かけちゃ駄目よ』

「うん!」

 おかあさんのこえに、ぼくは大きくうなずく。まかせて、いい子にするのはとくいなんだよ。

 ぜったい、だれにもめいわくかけないから!

 そのあと、もうちょっとだけ話して、ぼくはでんわを切った。おじさんも、何も言わなかった。

 外を見る。しんしん、しんしんと、しずかにふっていく、白い雪。いつもよりちょっと多くて、まるで、雪にとじこめられてるみたいだった。

 ぼくがじっと雪を見ていると、ぼくのかたに手がおかれた。ふりかえると、おじさんがぼくを見て、ちょっと笑っていた。

「夕飯、食べようか」

「……うん!」

 すると、まるでそう言われるのを待ってたんだ! とでも言うように、ぼくのおなかがぐぅ、と大きく音を出す。ぼくはちょっとはずかしくて、おじさんは、小さくおかしそうに、笑った。

 だからぼくは、ほおをふくらませる。

「笑わないでよ」

「笑ってないよ。……僕もお腹減ってるから、お腹の虫が鳴っちゃいそう」

「……おじさんも?」

「だから僕はおじさんじゃないけど……。うん、おじさんも」

「……そっか」

 そこでぼくも、やっと笑い返すことができた。まあ、やっぱちょっとムカつくけどね。

「今日の夕飯は、何?」

「そうだね……寒いから、シチューにしようか」

「シチュー!!」

 雪よりちょっとだけ、き色のはいったシチュー。とっても熱いから、ふー、ふー、ってしないと、とても食べられない。でも、口に入れると、すっごくおいしいんだ! 冬になると、おかあさんがよく作ってくれて……心も体も、とってもぽかぽか、温まるんだ!

 楽しみだなぁ、なんて言うと、頑張って作るね、なんて、おじさんが言った。

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