マフラー

「おじさん!! 来たよー!!」

「だから僕はおじさんじゃないって……いらっしゃい、たくくん」

 ぼくはくつをぬいで、家の中に入る。中からおじさんの文句が聞こえたけど、ぼくはむしした。

 初めておじさんと会ったあと、おじさんはぼくにあったかいお茶を持ってきてくれた。わざわざおじさんの家から、あの道まで。

 それからおじさんは、そこの道を行って、右に曲がったところに、僕の家があるから。と言った。ぼくはその日から毎日、おじさんの家に行ってる。

 おかあさんに言うと、ああ、あの、と言って、それっきり何も言わなかった。でも、だめ、って言われなかったから、行ってもいいんだと思う。

 そしておじさんは、ぼくが来ると、おいしくてあったかいお茶をくれた。

 今日もおじさんの出したお茶を飲む。おじさんも、大きないすにすわってお茶を飲んだ。初めて見た時、ぼくもすわりたくてそう言ったら、すわらせてくれた。でもぼくにはおっきくて、足がゆかにつかなかった。

 今日もぼくがお茶をのんで、おじさんは大きないすにすわる。おじさんはいすの上で何かをしていた。お茶を飲むだけなのはつまんなくて、ぼくはおじさんのとこに行く。

「おじさん、何してるの?」

「ん? ……マフラーを編んでるんだ」

「マフラー? 作れるの?」

「うん、慣れればね」

「へー、すごい」

 ぼくは思ったこと、そのままを言う。あんま思ってなさそう、と、おじさんは笑った。その顔がムカついて、ぼくはおじさんの手をつかむ。

「わっ、急に掴むと、危ないよ」

「ぼくもやる!!」

「ええ、出来るかな……」

「やるの!!」

 ぜったいやる!! ぼくがそう言うと、おじさんはやっぱりちょっとこまってるみたいだった。でもぼくをひざにすわらせると、ぼくの手をぎゅっとにぎった。そしてそのまま、いっしょにマフラーを作っていく。ぼくには、なんでこうするとマフラーができるかはわからなかったけど、ぼくがマフラーを作ってると思うと、ちょっと大人になったみたい。

 ぼくの手をにぎるおじさんの手は、あたたかかった。まるでおじさんのいれてくれる、お茶みたいだった。


 作りおわったマフラーは、ぼくのものになった。いいの? と聞くと、僕は使わないから。とおじさんは言った。

 だからぼくは、あたらしいマフラーといっしょに帰った。おかあさんに聞かれると、おじさんがくれたんだよ、ぼくもいっしょに作ったんだよ、とぼくは言って。

 おかあさんは、よかったわね、と笑った。

 ぼくはとってもしあわせだった。

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