Diamond dust
秋野凛花
出会い
しんしん、しんしんと、雪がふってた。
とっても静かに、ふってたんだ。
「たく、あまり遠くに行っちゃだめよ」
「はあい」
おかあさんの声に、ぼくはそう返事をする。振り返ると、おかあさんはちょっと遠くにいた。雪がふっていて、ちょっとぼやけていた。
おかあさんはもうぼくを見ない。だからぼくは走る。あれは、もう行ってもいいよ、ってことだから。
ここはあんまり車が通らないし、危ない人もいない、そんなところ。だからおかあさんはぼくを自由にあそばせてくれる、みたい。おかあさんが、そう言っていた。
今日は、冬になって初めて雪がふった日。手におちる雪が、すっごくつめたい。おかあさんがくれた手ぶくろをつけて、ぼくはまっ白な道を、わーって走っていくんだ。
雪を見るのは、初めてじゃない。でも、初めて見た時と同じくらい、今ぼくは、ワクワクしているんだ! こんな日は、なにかいいことがあるかもしれない。そう思うと、もっとワクワクした。
今日はちょっと、行ったことのない道を行ってみる。あまり遠くに行っちゃだめって言われたけど、近くだもん。だいじょうぶだよね?
さく、さく、って、ぼくが歩くと音がする。それが楽しくて、ぼくはそこでちょっとおどってみる。さくさく、さくっ!! いい音がして、楽しいね!!
そこでぼくは、ころんじゃった。雪がふってるから、あしもとには気をつけなさい。おかあさんがそう言ってたのを、ころんでから思い出した。
すってんころりん。ぼくはおしりをうっちゃって、とってもいたい思いをした。いたくて、ジンジンいたんで、あつい。あついのに、雪の上に落ちたから、つめたい! 変なかんじ。
もう、いたくていたくて、ぼくの目からなみだが出る。たくはつよい子、なかない子。おとうさんがぼくにそう言ったのを思い出す。おとうさん、今どこにいるんだろ? ぼくがないたら、また来てくれる?
たくはつよい子、なかない子。
「どうしたの?」
上から声がした。低い声だったから、ぼくはおとうさんが来たのかと思った。おとうさん!? とかおを上げる。
……そこに、おとうさんは、いなかった。
そこにいたのは、しらない人だった。
「あ、転んじゃった? 大丈夫? 痛い?」
「……いたくない」
「そっか、君は強い子なんだね」
その言葉に、どきりとむねが音をならした。それは、おとうさんの言葉だったから。もしかしてこの人、本当におとうさん?
でもやっぱり、上から下まで見てみるけど、おとうさんとはちがうみたい。
おとうさんは、もっと体が大きかった。この人はちっちゃい。おとうさんのかおは、ずっとえがおだった。この人は、ちょっとこまってるみたい。おかあさんと、同じかおしてる。
その人はぼくのとなりにすわると、ぼくを見た。そのかおは、なんかやさしかった。
「……今日は寒いね。僕の家来る? あったかいお茶があるよ」
「……知らない人にはついていっちゃだめだって」
「確かに、ごもっともだ」
ごもっとも、の意味はよくわからなかったけど、その人は小さくうなずいた。
やっぱりちょっと、こまってるみたいだった。
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