第22話 勤労者諸君!(2)〔ついにメルマガが届く〕

 ある日、パソコンを開くと久しぶりにメールを受信した。

 プロバイダからのお知らせだろうか、と思って件名を見たら、「エバーグリーン通信」とある。

 なんだそれは……新手の迷惑メールか?

 どうやらウイルスではなさそうなので、怖いもの見たさに開いてみると、こんなことが書いてある。



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  Subject: エバーグリーン通信

  From: ricco

  みなさんご無沙汰です☆

  夏休み中は、このEG通信もお休みしてましたが、いかがお過ごしでしょうか? (^O^)/

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 ……なんだ、梨子からのメールじゃないか。

 うっかり開いてしまったのは不本意だが、暇なこともあり、ついそのまま読み進む。



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  遊びに恋に、ちょっぴりお勉強? みんなもそれぞれの夏を燃焼させたんじゃないかって、思ってます。

  実はね、riccoも夏バテしてたわけじゃなく、新たな挑戦に、打って出ました。

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 ……なんだかAMラジオのパーソナリティみたいな口調だな、と思いつつ、かまわず先へ進む。



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  まずは、新しいアルバイト。

  こないだまでは書店でバイトしてたんですが、このたび、地元の企業が運営してるミニコミ誌の編集室に、週に二、三日通うことになったんです (*^^)v


  時給が少しいいのと、riccoが目指してるジャーナリストの仕事に役立つんじゃないかなっていうのが、主な理由。


  ミニコミ誌とはいえ、ジャーナリズムの現場は分からないことも多く、あたふたしながらも、その刺激とプレッシャーを、日々楽しんでますよ! o ( ^O^*=*^O^ ) o ワクワク

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 ……ジャーナリズムの現場が顔文字を使うか?



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  もう一つの挑戦は……これ、どうしようかな、打ち明けようかな。

  時給のいいバイトを選んだのも、こっちの挑戦に役立てたいっていうのが大きいんだけど……でも賛否両論あると思うし……いえ、ほかならぬEG読者のみなさんですから。

  ええい、有言実行だ! ここで宣言します(*´▽`*)

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 ……早く言えよ。



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  実は、ジャーナリズム専攻のある大学を、受けなおそうと思ってるんです。

  ご存じのように、riccoは今、某私立大学の文学部に通ってるんですけど、この大学はジャーナリズム系の学科がないのもありますが、そもそも大手マスコミだと就活自体が厳しいって話なの ( ´ヘ`;) ウーム…


  今の大学に入ったのは、ちゃんと努力した結果だし、学費も親に出してもらってるので、身勝手なことはできません……。

  でもriccoの大事な夢だから、二つのことを条件に、もう一度だけチャレンジしてみようと思うんです。


  一つは、授業料の安い某国立大を目指すこと。

  もう一つは、受験に関わる費用はできるだけ自分で工面することです。


  一つ迷ってるのは、今からでも予備校に通うかどうか。

  模試だけでも受けてみたいとは思うんだけど、仮に通うとなれば、親の出資をさらに請わなければなりません……。


  でも合格したら、授業料自体がぐっと下がるわけだし、自分の生活費はバイトで稼げば、結果プラマイゼロにできる、と思ってます……。


  riccoの思ってること、甘いかな?(´-ω-)


  実はもう、出願の準備はできてます。

  去年通ってた予備校のテキストを引っ張り出して、受験勉強も進めてます。


  このEG通信をお届けしてるのは、riccoが勝手に同志と認めさせていただいた大切なみなさんです。


  みなさんの忌憚のないご意見を、ぜひぜひ聞かせてください m ( _ _ ) m

  ~~~



 ……いったい彼女は、なぜこんなメールを私に送り付けたんだ?

 バイトするなり受験するなり、勝手にすればいいのに。


 自分の頑張ってる姿を人に見せたいわけ? 私に認めてほしい?

 それとも……バイトも勉強もせず、一日中部屋で立ったり座ったりしている私への当てつけなの?


 私はパソコンをシャットダウンして、ベッドの上に仰向けになる。

 しばらく天井の模様を眺めていたが、やがて目を閉じる。

 私は忘れようとした。考えてたってしょうがない。今の私に何ができるっていうんだ……。

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