第20話 団地でビラ配り(1)〔パソコンメールで対話〕

 気づくと外は暮れかかっていた。いつのまにか眠っていたのだ。


 ベッドから起き上がり、明かりをつけ、パソコンを開く。

 早希のサイトを訪ね、日記のページを開いてみるが、コメントは私が書いた(1)のままだ。

 日記には既読を示す機能なんてないので、私のコメントが早希や誰かに読まれたかどうか分からない。

 メールソフトを開くと、新着メッセージがあった。早希からだった。



  ~~~

  ジュンさん? ジュンさんよね?? 書き込んでくれた??? 超うれしいんですけど! 

  あんな日記を書いて、誰が読んでくれるんだろうって思ってたけど……やっぱジュンさんか!! 

  うん、そんな予感はしてた。今何してる? 返事くれない? 話がしたいよ。

  ~~~



 私は素直に返事を書いた。



  ~~~

  そうです、私です! 私も日々引きこもってます。

  こんなことでいいのかって、思わないでもないけど、今はほかにできることもないし。

  こないだ、近場を旅行してきました。気力とお金が続かず、二日で帰ってきたけど……。

  私の場合、早希さんみたいに面白い話はありません。

  あ、面白いって言ったら怒る? でも早希さん、そのフリマで、人がしないような経験は、できたんじゃないかな。

  ~~~



 一時間くらいあとに、早希からの返信があった。



  ~~~

  おー、やっぱジュンさんだ!

  そそそそ! 自分なりの新しい経験ができたって、思うしかないよね!

  ジュンさん、旅行したんだ。どこに行ったの?

  あたしは気持ちも財布も余裕ないから、旅行なんて全然してないっす……。

  ジュンさんさ、携帯、直った? パソコンの前で返事待ってるのもつらいし、携帯メール、教えてくれないかな?

  ~~~



 最近は携帯電話の出番がなく、ろくに充電もしていない。

 よってそのままパソコンで返事を書く。



  ~~~

  携帯、なんだか電池がないんだよね……。

  旅行は、山に行って、海に行って、それで余裕がなくなって、帰ってきました。

  初日は、夏休みなのに宿を決めてなかったから、あやうく野宿しそうになったけど……

  ~~~



 それ以上話が続かなくなったので、返信ボタンを押した。

 十五分くらいで、またメールが返ってきた。



  ~~~

  ???? 電池がないって?? 電池がどっかに行っちゃったってこと? 充電してないって意味? 全然分かんないんですけど?

  でも宿も決めずに旅行するなんて、ジュンさんにもそんなところ、あるんだ?

  あたしの場合、宿から電車からきっちりスケジュールが決まってないと、動けないの。そうしないと間違いなく行方不明になるし――。

  あのさ、電池が復活したら、携帯メール、教えてね。よろしく!

  ~~~



 パソコンでメールを返した。



  ~~~

  ふーん。早希さんって、私から見ると、予測のつかない感じがするし、旅行をしても、その場の感性で、行動を決めていく人なのかと思った……。

  携帯は、まだパワー不足みたい。

  ~~~




 十分くらいで返信があった。



  ~~~

  その場の感性か……。そんなふうに自由に振舞えたらって、あたしも思うわ。

  好き勝手なことしてるように見えるかもしれないけど、これで義理堅いところもあるのよ。

  自分の思い込みなのか、人とのしがらみなのか、いつも何かに縛られながら生きてる感じもあるし、それで落ち込んだりもするわ。

  一度ゆっくり、話を聞いてほしいんだけど。

  今度、会えないかな? そうしようよ!

  ~~~



 次は会いたいと来たか……。


 時計を見ると、午後九時を回っている。パソコンでメールしてると恐ろしく時間がかかる。

 遅くならないうちに晩ご飯を食べようと、キッチンの残り物をあさり(母は最近、私の不規則な生活に干渉せず、エサになるものを残してくれてある)、歯を磨いてシャワーを浴びると、そのままベッドに入って寝てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る