第19話 早希の日記(5)〔早希、結局ハミ出してしまう……〕

  でも気づいてみると、なんだかあたし一人がしゃべってさ、接客も販売も一手に引き受けるって、そういう図式が出来上がってるのね。

  暑いし、汗かくし、なんでこうなるの? って思いながらも、自分でもブレーキがきかなくなって、どうやらあたしの顔つきも険しくなってきたらしく、Aさんがなだめるみたいに言うのよ。


  「おいおい、そんなに頑張らなくていいって……。今度、慰労会開いてやるからさ」


   ――それ聞いてあたし、


  「お気持ちだけで結構です、予定がつまってますから」って切り返したら、今度はBさんが言うの。


  「そうだよな、sakiにも選ぶ権利があるもんな」


   ――それであたし、


  「福山雅治に誘われたんなら、考えてもいいけど」って答えたら、なんだかそれが、AさんBさんのココロの琴線に触れたらしく、


  「オマエはああいうのが好みか?」とか、


  「ここで福山を出すのは反則だぞ!」とか、オクターブくらい高い声で反撃してくるの。


  すると横からDさんが、


  「選ぶ権利はある、でも選ぶ相手がいない」って、例によって不思議なコメントを述べるので、あたし、


  「じゃああなたはどんな子が好きなのよ?」って聞いたらさ、Dさん、


  「僕には選ぶ権利もない」って言うの。


  あたし、もう頭の中が、???? でいっぱいになってきて、


  「アンタさっきから何言ってんのよ?」って、言い返したのね。


  たぶんあたしの口調が、だいぶテンパってたからだと思うけど、Aさんが、微妙にDさんを庇う仕草をするの。


  あたし自分が責められたような気分になって、


  「だってあたし、Dさんの言ってること分かんないもん!」って訴えると、またDさんが、


  「心配すんな、僕もだいたい、人の言うことが分からない」、とか減らず口をたたくから、あたしたぶん、どこかがプツンと切れて、


  「アンタ何?? あたしを馬鹿にしてんの?!」みたいなことを言って、食ってかかったんだと思う。


  そしたらAさんやBさんが、急に紳士面して、あたしとDさんのあいだに割って入ってさ、Cさんまでもがあたしの腕を押さえて、あたし一人が悪者って感じの、ストップモーションの図になったの。


  そこでBさんが一言、


  「Dさんに八つ当たりすることないだろ……」


  すると当のDさんは、まるで他人事みたいな調子で、


  「心配すんな、僕もだいたい、場の空気が読めてない」って、懲りずに妙なことを言ってるし……。


  でも考えてみると、この場面でズレてるのは、圧倒的にあたしのほうだと思えてきて、なんだか体から力が抜けていくのを感じたわ。


  あたし、それからさすがに無口になった。

  また馬鹿なことやっちゃったっていう思いや、さぞかし妙なやつに見られてるだろうなっていう、自己嫌悪みたいなものが湧いてきて、自分の中で火が消えたみたいに、気持ちが沈んでくるの。


  そんな様子を見かねたのか、Eさんがあたしのそばに来て、


  「sakiさん、悪くないと思う」って言ってくれた。


  するとCさんも、ぽつんと、


  「あたしもそう思う」って言うの。

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