第19話 早希の日記(3)〔早希、フリマに参加……〕
9月10日
で、Nさんにどこに連れていかれたかっていうと……
結局、フリマの手伝いさせられたの。笑っちゃうでしょ?
Nさんいわく、「とにかく収益をあげなきゃいけない事情があってね。あんたは接客の仕事もしてたっていうし、口数も多いから、役立つと踏んだの」、だって。
○○区の中央公園でフリマイベントがあってさ、ここは来場者も多いし、間違いなく収益を上げるチャンス。
でもNさん自身、どう見ても売り子ってタイプじゃないし、戦力になってないみたい。それであたしが駆り出されたってことらしい。
「まさか盗品を扱うとか、ヤバいやつじゃないでしょうね」、って聞くと、Nさん、
「そんなわけないでしょ、私が関わってるNPOの活動よ。ここまで来たら、四の五の言わず、ついてきたら?」って、涼しい顔で言う。
中央公園に行ってみると、テントが寄せ集めみたいにあちこち立っててさ、服だの、家具だの、食器だの、訳の分からない輸入雑貨だのがごちゃごちゃ並んでて、その周りに、どっから来たのか黒山の人だかり……まだ暑いのにね。物欲と、好奇心と、ひまつぶしと、一種の群集心理みたいのもあるのかな。
あたしたちのテントは、奥まった外れのほうにあって、人の流れは残念ながら少ない。もう午後だったから、ほかのメンバーはそろってて、Nさんが一人ずつ紹介してくれた。
まずAさんは、闘士型の学者崩れみたいな人で、この場を仕切るのは俺だって気概にあふれてる。
Bさんはその同僚らしく、線は細いけど言葉が鋭くねちっこそう。
Cさんは、Nさんの仕事仲間らしく、おとなしそうだけど人を批判するのが好きみたい。あたしが「むやみに脚を出して耳のいたるところにピアスを刺してる」のを、真っ先に指摘してくれたわ。
Dさんは不思議な感じで、身の回りの出来事や、自分の思ったことを、口に出してしきりに話すんだけど、話の展開がちょっと変わってるの。ときどき意味不明。
Eさんはいつも静かで、にこやかで、たまに口を開くと、必ずポジティブなことを言う人。「このテント、人通りは少なくても、木陰で涼しいのがいいです」、とかね。
Fさんは、このメンバーの中で一番正しい日本語を使う人……あたしに言われたくないか。あたしにきちんと挨拶してくれたのはこの人だけ。
……これで何人になる? あたしを入れて8人? そのメンバーがさ、狭いテントの中にひしめいてるのよ。
あたしたちが売るものは、どっかから集めてきた古着とか、景品とか、外国の土産物に、手工芸品もあったかな、確かにそこそこの分量ではあるんだけど、でもこれに8人も必要なわけ?
あたし思ったことはすぐ口にしちゃう性質なんだけど、そう指摘したら、Aさんがね、「賃金を払ってるわけじゃないからかまわない」みたいなことを言うの。
あたしカチンときて、
「でもこれ、どういうメンバー構成なんですか?」って聞くと、Aさんいわく、
「人選はみんなに任せてるから分からない」だって。じゃあ成り行き?
そしたらさ、さっきの不思議オーラを出してたDさんが、横から口をはさんで言うのよ。
「いろんな人がいるのが、面白いんですよ。僕みたいのとか、あなたみたいな人も」
……あたし? あたしもそういうバリエーションでスカウトされたわけ? しかもあんたに言われたくないわ。
それであたしをスカウトした張本人のNさんに、ひとこと言わせようと思ったら、彼女、クライエントがもめてるとかで、ずっと携帯で話してるの。
深刻な面でテントを出たり入ったりしてると思うと、そのうちどこかに消えちゃうし。
と思ったら、さっきの正しい日本語を話すFさんも、「じゃあ僕はこれで失礼します!」とか言って、爽やかに去っていっちゃうのよ。
どうやらFさんは、DさんとEさんを引率して、このフリマに参加してもらうのが役割だったらしい……。
あ、もう2時になっちゃった。そろそろ寝なきゃ。
(注:NPOの啓発兼資金集めのフリマに、「多様性」のためにいろんなメンバーが参加している、ということらしい)
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