第19話 早希の日記(2)〔早希、ソーシャルワーカーのNさんに誘われる〕

  9月4日

  たいくつです。

  仕事してるときは、早く五時にならないかな、としか思ってなかったのに、仕事がないのも、それはそれできついのね。

  こないだは、久しぶりにOちゃんやKたちとビアガーデンに行って発散したけど、そもそも収入がないから、そう頻繁に出かけるわけにもゆかず。

  電話もメールも変えたせいか、誰からも連絡が来ない! 余計に暇な日々。

  サイトのお友達とのやりとりで、ちょっと救われてます。

  でもぽっかり空いた時間は、なんとも向き合いようがない。



  9月9日

  あたしの通ってる病院で知り合った、Nさん。

  ソーシャルワーカーを名乗っているけど、ほかにNPOの活動もしてるらしく、何者なのかつかみどころがない。

  涼し気なお姉さんで、こないだの二次会でバーに連れていったら、すぐ潰れちゃうような、可愛いところもある人。

  ……あ、一生の不覚だから言うなって言われてたけど、まあいいや。


  そのNさんが、あたしをまじまじと見て言うのよ。


  「あんたはいつも利いたふうなことを言って、そのくせ自らまったく動こうとしない。特に最近は、やることがないもんだから、壊れたテープレコーダーみたいに、無駄なおしゃべりばかりまき散らして、見ていて痛ましいくらいよ。仕事を辞めたのはしかたないけど、でも若いかけがえのない時間を、そんなふうに浪費すべきじゃない」って……。


  確かに、あたしの場合、朝遅く起きて、何か食べて、ぼっとするか、メールを見るか、それで夕方になったら、ときどき誰かを呼び出して、遅くまでくだを巻くのがせいぜい。飲んで話す時間だけは、色鮮やかだけど、それ以外は、ぼやけた感じだし……。元カレとも別れたしね。


  でもあたし、言ってやった。


  「あたしだって、好きでこんな暮らししてるわけじゃないわ。『やることがないから』とか、そんな問題とも違う。人が失業してるからって、見下すようなこと言わないで――」


  するとNさん、


  「自分を卑下してるのは、あなた自身じゃない? 酒飲んでわめいてる暇があったら、もっといろんな分野に踏み出して、自分を試してみたらいいのよ」と言う。


  ひょっとしてNさん、こないだ酔いつぶされた仕返しに、何かたくらんでるんじゃないかって、警戒して、


  「でもあたし、セミナーとか集団療法みたいのも、ゴメンよ」と答えたら、Nさん、


  「そんなんじゃない、あなた自分のことを全然分かってないわ。あんたみたいのでもちょっとは役に立つところがあるから、今後一緒にいらっしゃい。自分への思い込みは、捨てるべきね」って言うの。


  そりゃあたしだって、正直暇を持て余してたくらいだからさ、


  「あたしには思い込みも先入観もないわ。必要があれば、どこにだって顔を出してやる」みたいのことを答えたのね。挑発に乗せられた感もあるけど……。

  それで……あ、もうこんな時間。続きはまた明日。

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