第2話「再開」
「それにしても不思議な体質だよねー」
ゆっこにそう言われそうかなぁ、と返す。
「そうだよ!だってテストだって高得点だし、予習さえしてしまえばクイズも満点!人の名前忘れてきまずい空気になることもないんだよ!?羨ましいなぁ」
ゆっこはそうまくし立てるが、私はそうは思わない。忘れたい嫌なことまで覚えちゃうし、気になる夢のことは全く覚えられないし、時々頭が割れそうなほど痛くなる。きっと普通の人にはわからない感覚なのだろう。
「ホームルーム始めるぞー」
そんなことを話しているとオニセンが入ってきた。鬼みたいな怖い先生というわけではなく、単純に顔がおにぎりみたいな先生だからそう呼ばれている、可哀想な先生である。
キンコンカンと始業を告げるチャイムが生徒の耳を貫いた。
「おい、芦田。明日のテストの中身教えてくれ!今日のテストに全力出しすぎて明日の分の勉強何もしてないんだ!頼む!」
「だーかーらー私のデジャブは未来視じゃないって何度も言ってるじゃない。」
こんなアホな頼みをしてくるのは野球部の田中をおいて他に居ない。
「そんなことを言ってる暇があったらとっとと帰って悪あがきでもしなよ」
私が冷たく返すと田中はそこをなんとか、と頭を床にこすりつけてしまった。
「あはは、また陽介に絡まれてらァ」
「ちょっと三河、笑ってないで田中ひっぺがしてよ」
「やだよー面白いもん」
笑ってばかりいる三河にゲンコツを食らわそうとした瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。
「三河センパイ!お……お時間……いいですか……」
最初の威勢とは裏腹に最後の方は消えてしまいそうな声で三河を読んだ女の子はサッカー部のマネージャーの下級生だ。そう、三河と同じサッカー部の。つまり……
「おい、優斗。今月何回目だ?」
「うーん、七?八?多分それくらい」
いつの間にか立ち上がっていた田中の質問に三河が曖昧に答える。そう、三河という男はそれはそれはとてつもなくモテるのだ。容姿端麗、成績優秀おまけにスポーツも万能ときた。しかし、中身は小学生みたいなクソガキだ。私とゆっこがこいつに恋しないのはこれがあるからである。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
三河が颯爽と教室を出ると途端に静けさが訪れた。気づけば教室には私と田中の二人しかいなかった。いつの間にかゆっこは帰ってしまったようだ。誰も座ってない椅子と机。茜色に染まる黒板。カラスの声。ちょっと埃っぽい匂い。
「知ってる」
思わず声に出してしまった。
「出た、未来視」
「だからデジャブだって」
田中のバカ加減は本当に疲れる。
「じゃ、帰るか」
と私に声をかける田中に賛同し、家路に着くことにした。
田中とだべりながら下駄箱まで来るとゆっこと再会した。
「芽依おーそーい!」
「ごめんごめん」
「うし!ゆっこも帰るぞー」
私、ゆっこ、田中、三河。入学してすぐ行われたレクリエーションの班が一緒だったよしみで今でもなかよしメンツだ。三河は告白されるのでよくいないが。
「じゃあ、俺バスだから」
「私もー」
バス停まで来た時、田中とゆっこはそう言ってバス停の方に向かった。
「おけ、またあした!」
「おうー」
「じゃねー」
適当な挨拶を済ませ、一人で帰路に着く。
家の近くにある河川敷まで来た時、その男は河原でなにかしていた。はじめはその容貌から喫煙でもしているのかと思ったが、どうも様子がおかしい。なにやらわからない機会の前に胡座をかき、ずっと首を捻っているのだ。金髪ハーフアップと意味不明な機械がどうも結びつかなくて、十数秒見ていたら目があってしまった。
「あの!すいません!」
気まずくなって咄嗟に逃げようとしたら声をかけられてしまった。無視して立ち去ることもできたが、何となくそれも気分が悪くて彼の元へ駆け寄った。怒られるのかなと思い、口から出た謝罪の言葉をかき消すように金髪ハーフアップは言った。
「あの、ごめ」
「別世界ってあると思いますか?」
君とデジャブと夏の嘘 哀音昏音 @inecryne
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