君とデジャブと夏の嘘

哀音昏音

第1話「デジャブ」

「早く掴まれ!」

そういう君の顔はなぜか笑っていた。私も笑って君の手に掴まった。


小さな頃から何度も同じ夢を見る。見た事ない男の子が落ちていく私の手を必死に掴もうとする、そんな夢。

「芽依ー、起きてるー?朝よー」

「起きてるって!今行くー」

眠い目を擦り、お母さんが作ってくれたご飯を食べる。

「芽依、今日も遅刻しそうよ。大丈夫なの」

「もー、お母さん心配しすぎ。私そんなにのろまに見えるかなぁ」

「うん」

「ちょっと!」

そんな会話をし、二人で笑い合う。サクサクのトーストと少し苦いカフェオレと共に朝を送る。時刻は八時四十五分。朝見た夢の内容はとっくに思い出せない。

「はい、お弁当」

お母さんは毎日お弁当を渡してくれる。自分も昼から仕事があるのに。

「ありがとう」

時計を気にしながらサッとお礼を言う。急いでいるのだから仕方がない。今度またちゃんとお礼を言おう。

「いってきます!」

お母さんの返事を待たず、家を飛び出した。


「おはよ!今日も遅刻ギリギリだね」

教室に着くともちろんゆっこが先に来ていた。

「おはよーもうヘトヘトだよー」

ゆっこの隣に座り、机にうつ伏せになる。

「ね、そういえば『デジャブ』どうなった?」

「今日はまだ見てないよ」

デジャブ、とは今までに体験したことないはずなのに体験したことのあるような感覚に陥る現象のことだ。私はこれが頻繁に起こる。

「でもデジャブのメカニズムって見た事ある似たような出来事を頭が勝手に今の出来事と結びつけちゃってるんでしょ」

「でも」

ゆっこの指摘通りデジャブのメカニズムはとっくに解明されており、未来予知みたいな超能力では無い。でも、

「でも、芽依は見た事ある出来事全部覚えてるもんね!」

「なんで私の言おうとしたことがわかったの!?」

「十年も一緒にいるんだよ?芽依の考えなんて手に取るようにわかるっつーの」

ゆっこの言う通り、私はこれまで自分が体験した夢以外の全ての記憶を思い出せるのだ。



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