サンタが星にやってきた

清水らくは

サンタが星にやってきた

「遅かったか」

 星に降り立った男は、吐き捨てるように言った。

 星には、生物がいなかった。

「はずれはずれはずれ。またはずれだ。出世は遠いなあ」

 報告データを作成し、宇宙船に戻った男はごろんと横になった。

 Search for All Natural Talent and Alien、通称サンタ。それが彼の所属する組織名だった。ある日並行宇宙からの襲撃を受けたことにより、世界にはいくつもの宇宙があること、そして別の宇宙を侵略しようとする存在のあることを人々は知った。なんとか第一陣には耐えたものの、次の、さらには別の宇宙からの攻撃があるかもしれない。そう考えた人々は、宇宙中の「才能と知的生命体」を調べ、あらゆる可能性を探ろうと決意したのである。

 男はそのうちの1人だったが、いまだに調査が成功したことがなかった。仕事を始めて原星時間で五年になるが、毎年業績は最下位だった。

 そして今回もまたはずれか、と男は嘆いていた。

「せめて文明の痕跡でもあれば」

 このあと数か月、星を探索する予定だった。例えこの星に文明がなかったとしても、立ち寄った宇宙人が何かを残していることもある。とにかく何かを見つけられれば、と男は願った。



 目が覚めた。男は起き上がろうとしたが、体が動かなかった。「金縛り」という現象を聞いたことがあるが、彼の星の人間でかかったことのある者はいなかった。

「おはよう、お客様」

 声が聞こえてきた。宇宙船には彼以外いないはずだった。オペレーションシステムも、彼の好みで無音に設定されていた。

「だ、誰だ!」

「勝手に入っといて、僕から名乗るの?」

「勝手に入っているのはそっちだろう! 俺の船だぞ!」

「ふうん。でも、ここは僕の星だよ?」

 全身を冷たいものが走っている気がした。体は全く動かなかったが、目だけは動かすことができた。そういえば、電気がついている。

「お前の……星だと?」

「正確には、僕が星、かな。元々は他にもたくさん仲間がいたんだけどね、別の宇宙から変な人たちが現れて、皆殺されちゃった。で、君は何をしに」

 そんな話は全く聞いたことがなかった。だが、ありえない話ではない。男の星以外にも、すでに襲撃を受けた星があったとしても。

「俺はサンタだ。この星を調査しに来た。お前たちも別の宇宙から襲撃を受けただと!?」

「うん。でもね、僕は何とか耐えたんだ。いつかこういう日が……プレゼントが来る日を待って」

「どういうことだ」

「僕は体がないと力を使えないんだよ。人間が現れて、とっても力を使うことができていたんだけどね。最後の依り代は本当に強い心の持ち主だったよ……。彼はいつかこの日が来ると信じていた。復活の日がね」

「おい、意味が分からないぞ!」

「君は平凡な心のようだけど、大丈夫。僕が、何とかするからね」

 男の体がぐん、と起き上がった。

「うおっ」

「すぐに意識がなくなるからね。大丈夫、何も苦しくはないから。君は今から僕と、この星の神になるるんだ」

「おいやめろ、おい、お……」

 男の意識はどんどん薄れていき、そしてこの世から、彼の心が消えた。

「ふむふむ、人間とは違って少し太めなんだね。髭もすごい。そういえばサンタとか言っていたな? せっかくだから名前はもらおうか」

 男……いまはもう違うが……は、にっこりとほほ笑んだ。

「さあ、地球を再生しなきゃ。今度は僕がプレゼントをあげて、また豊かな星にするんだ」

 そう言うと、サンタは宇宙船から飛び立っていった。

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サンタが星にやってきた 清水らくは @shimizurakuha

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