『They couldn’t move on』の登場人物の名前
お次は、中編小説『They couldn’t move on』の登場人物の名前について、言及しよう。この小説の登場人物の殆どは、欧羅巴人名録というサイトを使って、名前を決めている。
URL:https://www.worldsys.org/europe/
ツールを使わずに命名した登場人物は、
・マーガレット
・ノア
の二人である。ノアに関しては、ミドルネーム以降を欧羅巴人名録で決定した。マーガレットは生まれが貧しいので、苗字はない。
拙作『They couldn’t move on』は、自殺した女学生が異世界の美青年貴族オーウェン・コンスタント・ミーハンに転生するが、青年になる以前の記憶を喪失しており、自分が何者に生まれ変わったのかを探っていく物語である。
マーガレットはミーハン家で子供たちに魔法を教える家庭教師で、ノアはオーウェンの婚約者・ジャクリーンの弟だ。
マーガレットは、マーガリンのイメージから命名した。別に、食用油脂であることにこだわりはなく、脂のイメージで名付けている。世界観が中世ヨーロッパ「風」ではなく現代日本だったら、「ごま」「あぶら」なんて名前にしていてもおかしくない。
彼女に脂のイメージを当てはめたのは、マーガレットの心身がお年頃であることを示すためだ。
マーガレットは、脂が乗った若い女である。……この言い方だとずんぐりむっくりだと誤解される方がいらっしゃるかもしれないので、言い直そう。マーガレットは、皮脂が沢山分泌して、テカったりベタついたりするような、汗臭くも若々しい女の子なのである。
精神的な「脂っこさ」と言うと、彼女は情緒的で、感情が表に出やすく、オーウェンに対して粘着質なところが「脂っこい」と思う。要は、年相応に拗らせているということだ。
そんな幼い彼女が働くミーハン家は、マーガレットを全く人間扱いしない。記号的だが、人間扱いされない=人間として始まっていない=子供という具合に、梅木は、マーガレットを精神的ロリとして書いている。
ノアは、西洋人の名前の由来一覧、みたいなページを検索し、「休息」という意味があるのを見つけて、決定した。
彼は、『They couldn’t move on』において、オーウェンに二つの安らぎを与える存在である。
一つは、言葉や態度など、表面的な優しさによる安らぎだ。
作中、自分がどんな人間に生まれ変わったのかも分からないまま、オーウェンは覚えのない嫌疑をかけられるのだが、ノアはオーウェンの無実を信じるといった旨の発言をする。
本心かどうかは知らん。
二つ目の安らぎは、死による安らぎである。
ノアは、オーウェンをジャクリーン殺しの犯人と判断し、物語のラストで誅殺を宣言する。この台詞は、小説本文では誰の台詞なのか明記しなかったが、今、ここで明言しよう。誅殺を宣言したのはノアだ。
オーウェンはこのとき、色々あった末にマーガレットに監禁されているのだが、大声を上げて助けを呼ぶようなことはせず、じっとしている。自分がどんな人間に生まれ変わったのかを断片的に知り、生きる気力を失ったからだ。
生まれ変わった自分が、こんなクズみたいな人間に育ったなんて、とか、そんな心境である。
その後、ノアが監禁場所に辿り着くことはできたのか、宣言通りオーウェンを殺すことはできたのか、小説本文には記していない。
しかし、死にたくなっていたオーウェンにとって、物騒な誅殺宣言が一周回って安心感に繋がっていたという可能性は記しておきたい。いや、普通に怖いし殺されたくないと思ってる可能性もあるけど。知らん。
というわけで、『They couldn’t move on』のマーガレットとノアの名前の由来、解説などを書かせていただいた。『They couldn’t move on』そのもののあとがきでは、「読者それぞれの解釈を大切にしていただきたい」とか書いた気がするが、このエッセイを読んだ方が本文を読むに至らない可能性もある。
そのため、がっつり梅木の頭の中の『They couldn’t move on』を解説してみた。
また、あの作品は、赤子を流産させる呪術が登場したり(描写は省き、妊婦の悲鳴で流産した事実を書いている)、マーガレットが教え子に性的暴行を受けていた事実が書かれていたり(シーンは書いていない)と、倫理観ゼロの舞台で物語が展開されている。
そんなえんがちょみてーな世界見たくない! という方々のために、ミステリー作品ながら、惜しみなくネタバレをした上で、解説したのだ。デリケートな要素はバラしたので、それでも本文を読む方は自己責任でお願いしたい。
今回の更新分はここまで。
なんて言うんですか? 平宍仁蜂 @Umeki2hachi
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