灰色の悪役令嬢は婚約者に溺愛され『ざまぁ返し』の手ほどきを受ける

書籍6/15発売@夜逃げ聖女の越智屋ノマ

灰色の悪役令嬢は婚約者に溺愛され『ざまぁ返し』の手ほどきを受ける

「シルヴィア……君に頼みごとがある」

病の床に伏したレオ様が、弱々しい声で私に言った。


チェスター侯爵家のレオ様は、私の大事な婚約者。生まれて初めて彼に頼まれごとをされて、私は泣きたいくらい嬉しかった。


「何でも言ってください、レオ様。あなたの願いなら、どんなことでも叶えます」


高熱に浮かされたレオ様は、かすれた声でこう言った。





「……君に『ざまぁ返し』を頼みたいんだ」

「……ざまぁ返し、ですか?」


どんなことでも叶えると誓った矢先に、理解不能な依頼をされて戸惑った。


「君は悪役令嬢であり、ヒロインから不条理な攻撃を受ける宿命だ。……だが、私は彼女ではなく君を愛したい。だから君には、ざまぁ返しをキメてほしい」




レオ様は熱病のせいで、錯乱しているようだった。

かわいそうなレオ様……。


私は彼を喜ばせるため、精一杯の笑顔でうなずいた。

「お任せくださいレオ様! シルヴィアは必ず、『ざまぁ返し』をキメて参ります」


  * *


――事の発端は2週間前。

婚約者のレオ=チェスター侯爵令息が、熱病で倒れたときのことだった。


レオ様はまさに名の通り獅子のごとく気高く精悍な男性で、ウェーブのかかった金髪と琥珀のような瞳が美しい人だ。


王室騎士団を勤めるチェスター侯爵の第一子で、次期騎士団長との噂も高い実力者。家同士の取り決めで、私――シルヴィア=グレイ侯爵令嬢と彼は、幼いころにはすでに婚約が取り交わされていた。王立アカデミー卒業後には、結婚することが決まっている。


私は子供のころからレオ様に憧れていたけれど、一方のレオ様は私にほとんど無関心だった。「地味で気弱な私なんて、レオ様にふさわしくないんだわ……」と、ずっと悲しく思っていたけれど。



熱病に倒れた日から、レオ様は変わった。



「……シルヴィア、ありがとう。思えば君は幼少時から、いつも私を慈しんでくれたね。なのに私はこれまで、君をおざなりに扱ってきた。……本当に済まなかった」


「もったいないお言葉です。取り柄のない私ですから、レオ様のお相手として不足なのだと思います。レオ様にはもっと華やかで、優秀な女性がふさわしいのかもしれません……こんな私で、申し訳ありません」


「そんなことを言わないでくれ」


看病していた私の手を、レオ様は握りしめた。初めてのことで、嬉しいのと恥ずかしいのと……私はすっかり混乱していた。


「泣きながら三日三晩看病し続けてくれた尊い君に……私は恋をしてしまったんだ。だからシルヴィア……君に頼みごとがある」




その『頼みごと』こそが、ざまぁ返しだったのだ。

私は快諾したものの、ざまぁ返しなるものがよく分からない。


レオ様は、「ざまぁ返しとは要するに仕返しのことだよ」と教えてくれた。


「男爵令嬢エマが、君への『ざまぁ』を企てている……」

「エマ様? どなたですか?」


「先週から王立アカデミーに入学してきた女生徒だ。私と君は先週からアカデミーを欠席しているから、まだ会っていない。エマの罠に堕ちれば君は精神を病んで罪を犯し、婚約を解消され……最終的には獄死することになる」


「婚約破棄!? 獄死…………!?」

いきなり恐ろしい予言をされて、私はうろたえた。


「い、いやです、レオ様! なぜ会ったこともない男爵令嬢に、そんなひどい仕打ちを受けなければならないんです!?」

「エマが私を落とそうとしているからだ」


落とす……?

「落下事故を企てているのですか!?」


「物理的な『落とす』ではなく……ちょっと言いにくいんだが……」


熱で赤くなった顔をもう一段階赤くして、レオ様は言った。


「……性的に、落とそうとしている」

聞いた瞬間、私は卒倒しそうになった。


「男爵令嬢エマは、私や王太子殿下を含めた五人の男をたらしこみ、ただれた学院生活を送ろうとしている。いわゆる『逆ハー展開』だ」


「……ぎゃくはぁ天界!?」

耳慣れぬ言葉に、私は震えた。ぎゃくはぁ天界というのがどんな場所か知らないけれど、とても危険な響きがする。


「シルヴィア、落ち着いて聞いてくれ。熱が下がってアカデミーに復帰したのち、私はエマに落とされる。……だが、これは演技だ。私は身も心も、君に捧げると決めている。エマには、デコちゅーまでしかしない。どうか許してくれ、やむをえない事情があるんだ」

と、レオ様は悲痛な顔で訴えた。


私はこの先の学院生活に不安しか見いだせなくなり、目に涙がにじんだ。……でも。


「わかりました。私は未来の夫を信じます」

初めて愛を誓ってくれたレオ様のことを、私は信じると決めた。


レオ様は「ありがとう」と呟いてから、私を引き寄せ唇を奪った。生まれて初めて口づけをされて、頭が真っ白になる。


「この接吻に君への愛を誓おう。君が絶対に生き残れるよう、今から君に『ざまぁ返し教育』を行う」




  * *




そして数日後。私は約2週間ぶりにアカデミーへ登校した。


あちこちで女生徒達が私の陰口を囁いている。


「ねぇ、あの方がシルヴィア様でしょう? エマ様にしつこく嫌がらせしているという」

「噂どおり、陰湿そうな女性ね。エマさまの教科書を盗んだという噂も本当なのかしら」

「シルヴィア様って灰色の髪で、ちょっと薄汚い印象ですわ。グレイ侯爵家の高貴なお家柄には、ふさわしくありませんわよねぇ」


私は、平静な気持ちで心ない悪評を聞き流していた。

(レオ様の言う通りになったわ……これが男爵令嬢エマの作戦なのね)


わたしを追いつめて心を病ませ、レオ様を奪い取ろうという作戦。

……なんて卑劣なのかしら。


そもそも2週間欠席していた私が、先週入学してきたエマに嫌がらせをできる訳がないのに。荒唐無稽な悪評でも、あちこちで囁かれると信ぴょう性が増すから不思議なものだ。


深呼吸して、心を整えた。


学院ホールの中央に、ひときわ華やかな一団がいる。

始業前のひとときを、楽しく談笑して過ごしている高貴な方々――王太子殿下、宰相閣下のご子息、王立アカデミー学院長のご子息、医療魔術師団長のご子息、そして……私の婚約者・騎士団長のご子息レオ様。美男子五人に取り囲まれて幸せそうに笑っているのが、男爵令嬢エマ=スプリングフィールドだ。


(花の妖精みたいに、かわいらしい女性ね……)


たしかに、エマは美しい。

ピンクブロンドの髪も、空色に金箔を散らしたような不思議な色合いの瞳も。バラの花弁を思わせる瑞々しいくちびるも。男性の庇護欲を掻き立てる、華奢な体も。


銀灰色の髪の、くすんだ銀瞳の私とはすべてが対照的だ。


(……でも、レオ様は私の銀色が好きだと言ってくれたわ。「君は自分の美貌に気づいていないだけだ」と言ってくれた。だから……)


――絶対に負けない。


私は五人の美男子とエマ嬢のいる場所まで、淑女らしい足取りで歩み寄った。


「お初にお目にかかります。エマさま」

貴族淑女の礼を執る。エマはびっくりした様子で私を見ていた。


「わたくし、グレイ侯爵家のシルヴィアと申します。以後お見知りおきを」

「……え? あぁ……」


先日の『ざまぁ返し教育』のとき、レオ様は私に「自信満々に振る舞え」とおっしゃっていた。気弱だと舐められるから……と。


「お噂通り、とてもな女性ですね。どういうわけだか、私がエマさまに嫌がらせし続けているという噂が立っているようです。……うふふ、初めてお会いするのに、おかしいですね」


レオ様が、ちらりと私を見てくれた。「いいぞシルヴィア」と視線で応援してくれている。

だから、私はエマなんかに負けない。


「今後とも、、エマ様」


  * *


食堂でエマ様に紅茶を掛けたとか。

薬草学の実習中に、エマ様に高温の香油を浴びせたとか。

エマ様の制服をナイフでずたずたに裂いた……とか。


理解不能な悪評が、日に日にわたしへと付与されていった。


今、私は教室にいる。

私の筆入れに見覚えのない羽ペンが入っていたので首を傾げていたら、「それ、エマさまの羽ペンじゃありませんか!?」と悲鳴のような声を上げる女生徒がいた……エマの取り巻きだ。


「わたくし、見てました! シルヴィア様がエマ様の羽ペンを盗むところ!」

と証人まで出てくる始末。やれやれだ。


「シ、シルヴィア様が……父の形見の羽ペンを……!?」

と、よろめきながら呟くエマに、私は静かに近寄った。


「エマ様。こちらの羽ペン……798年製のトリシャモデルのようですわ。エマ様のお父上とお噂される前教皇クシャダ2世猊下がご崩御あそばされたのは賢王歴795年。恐縮ですが、つじつまが合いません」


私が余裕たっぷりにそう言うと、エマは可愛らしい顔を小さくゆがめて硬直していた。


――この子、知恵が足りないわ。本気で私をつぶすつもりなら、もっと頭を働かせないとね。



でも、私が冷静な行動をとれるのはすべて、レオ様の教育のおかげだ。レオ様がいなかったら、私はエマの幼稚な罠に堕ちて発狂していたに違いない。




(……レオ様。本当にこのまま『ざまぁ返し』を続けていれば、いつか私のもとに帰ってきてくれるのですか?)




ランチタイムに食堂で繰り広げられていた『ぎゃくはぁ天界』を目の当たりにして、わたしの心は暗くなった。レオ様は今日も、エマを取り巻く五人のうちの一人として、エマにとろけるような笑みを向け続けている。


ぎゃくはぁ天界……なんて恐ろしい世界なのかしら。


エマはこの国を混沌に陥れる悪魔に違いない。王太子を始めとしてこの国の未来を担う男性たちを、エマという一人の女が骨抜きにしている。他の生徒たちは危機感もなくエマを祝福しているけれど……このままでは、この国の未来は暗い。



(……レオ様。信じています)

私は最愛のレオ様に祈りをささげた。……エマの額にキスをして、イチャイチャしているレオ様に。



  * *



数週間後。レオ様は私に何も告げず、2週間の国外視察に出立してしまった。

出立前に、ひとことくらい声を掛けてくれてもいいのに……


レオ様がなぜアカデミーに来ないのか不思議に思っていた矢先、父からレオ様が王室騎士団の一員として国外視察に出られたのだと知らされた。


「シルヴィアに知らされなかったのもやむを得まい。レオ君は次期騎士団長となる青年……すべては国王陛下の思し召しだ」

と父は言っていたけれど。


(……でも、レオ様はエマには教えていたかもしれないわ。だって、毎日親しそうだもの)


ここ1か月、私とレオ様との接点はまったくない。婚約者として、この対応はどうなんだろう……?


一度くちづけをされただけで。愛しているといわれただけで。本当にレオ様を信じていいの?

レオ様が心変わりしないとはかぎらない。エマのような魅惑的な女性が相手なら、なおさらだ……



そんな思いで悶々としながら、私はアカデミー内の階段を昇っていた。

――そのとき。


「ごきげんよう、シルヴィア様」

上階から、エマが現われた。


私が無言で通り過ぎようとすると、エマは無遠慮に私の肩を掴んできた。


「……なにその余裕ぶった態度。あんたってさぁ。原作とキャラ違くない?」


……はい?


「ねぇ。なんで堂々としてんの? 原作では、ちょっとしたことですぐ取り乱して、泣いて騒いでメンヘラってさぁ。私にナイフ向けたりして。レオに即行で婚約破棄されてたじゃん」


「…………なにをおっしゃっているか、分かりません」


「そういう取り澄ました態度がムカつくの! 他の奴は全部原作通りなのに、あんただけ挙動が異常なんですけど。バグなの? なんかキモイし! 死んじゃえば?」


エマは自分の首もとから、ブチっとネックレスを引きちぎった。狂気じみたその行動が恐ろしい。

思わず一歩退いた私の手を掴むと、エマは強引にそのネックレスを握らせた。そして――


「はい、ざまぁ~!」

と声を弾ませて、私を階段から突き落とした――



  * *






目を覚ますと、私は救護室のベッドに横たわっていた。

回復魔術医のサラ先生が、私に微笑みかけている。


「だいじょうぶ? 階段から足をすべらせてしまったなんて、災難ね。エマさんが貴女を見つけて、救護室まで運んでくれたのよ? おかげですぐに処置できたわ」


エマに突き落とされたのに、エマに助けられたことになっているらしい。

私の手は、見知らぬネックレスを握りしめていて……ふと我に返り、ぞっとした。


(どういうこと? エマはなにを企んでいるの!?)



私が混乱していると、バタバタというけたたましい足音がいくつも近づいてきた。

勢いよく救護室の戸を開いたのは、王太子だった。


「シルヴィア=グレイはここか!? エマの大切なネックレスを盗み、挙句の果てに階段から突き落とそうとしたそうだな!」


王太子を始めとする四人の男性――海外滞在中で不在のレオ様を除く四人の取り巻きたちが、鬼気迫る表情で私に迫った。彼らに守られるようにして、エマは、ぐすんぐすんと泣きじゃくっている。


「……シルヴィア様が『すてきなネックレスね』とおっしゃって、奪おうとして。……階段で揉み合いになっていたらシルヴィア様が落ちたんです。でもわたし、心配だから救護室まで連れて行ったんです」


そんな……いくらなんでもヒドすぎる。

私は震えながら、ネックレスを拳の中に握りしめた。


(――このネックレスを見られたら、私は罪を着せられてしまうわ。何を言っても、絶対に誰もわたしの話を聞いてくれない)


これまで地道にざまぁ返しを続けてきたのに、今までの苦労が水の泡になってしまう!


「どうしたシルヴィア=グレイ! 顔が真っ青じゃないか」

「素直に罪を白状しろ!! この盗人め」


男性たちに責められて、私は泣き出しそうになった。でも、泣いても誰も助けてくれない……




「――シルヴィア」




唐突に。静かな声が響いた。

救護室の入り口に、騎士団の装束を纏ったレオ様が立っている。


「わぁ……レオだ! 戻ってたの? 大事なお仕事、終わった?」

エマが親し気にレオ様に近寄り、抱きしめた。


「あぁ。先ほど帰国して、国王陛下にご報告申し上げてきたところさ」


レオ様はそっとエマの腕を解くと、かつり。かつりと静かな靴音を響かせて私に近づいた。

「話は聞いた。シルヴィア……エマのネックレスを、本当に持っているのか?」


私は……震えた。全身の震えが、止まらない。


「持っているんだな?」


レオ様の目を、見るのが怖い。


「さあ、見せるんだ」


レオ様は静かに私の腕を取り、拳をそっと開かせる。

私の手のなかには、エマのネックレスがあった。


静寂の中、全員が息を呑む――





「……これが動かぬ証拠だな。衛兵、その女を捕縛しろ」





レオ様がそうつぶやくと、救護室の入り口から十数人の衛兵がなだれ込み、


「え!?」

私もエマも、同時に声を漏らしていた。


レオ様が私の肩を抱いて、高らかに宣言した。

「我が婚約者シルヴィアが、重要な証拠を引き出した! エマ=スプリングフィールドは、廃嫡された第一王子アルベルトと内通して国家反逆を企てる重罪人である。このネックレスが動かぬ証拠だ! エマを引っ立てよ」


王太子が「そんな……エマが兄上に内通していただと……?」と蒼白な顔で呟いている。ほかの男性たちも、国家反逆者アルベルトの名を聞き絶句していた。


縄を掛けられたエマが、乱暴に連れ出されていく。


「はぁ!? マジあり得ない! アルベルトは裏ステージのエクストラキャラじゃん! わたしは別に国家反逆とか興味ないし……離してよぉ! なによこのクソゲー!!」


エマの淑女らしからぬ罵倒が、徐々に遠のいていった。


「よく頑張ったね、シルヴィア」

緊張の糸が切れてくたっとした私を、レオ様がしっかりと抱きしめてくれていた。


  * *


数日後――



「エマは政治犯専用の牢獄に収容された。もう二度と君に『ざまぁ』を仕掛けてくることはない」


レオ様はゆったりとソファに腰かけてワインを飲みながら、優しい声で私に言った。


「彼女が政治犯だったなんて……信じられません」

「まぁ、実際に国家反逆を企てる意思や知能があったとは思えないが。政治犯であるアルベルトと隣国で密会を繰り返していた以上、彼女は罪を免れない」


レオ様の隣にちょこんと座っていた私は、ひとくちだけワインを含んで彼に尋ねた。


「君に怖い思いをさせて、すまなかった。まさかエマがあれほどの暴挙に出るとは思わなかったんだ……」

「いえ……。ところで、もしかしてレオ様が海外視察に行っていた理由って……」


「騎士団の一員としてアルベルトの動向を探っていたのさ。エマは学院内で王太子を含む五人の男を手玉に取り、国家機密をアルベルトに流し続けていた」


――ここは、アカデミーに隣接する男子寮の専用個室。

アカデミーには寮生と自宅生がいて、レオ様は寮生だ。


原則的に女生徒は男子寮に入れないけれど、『好感度』という指標が一定水準に達した場合に限って男子寮に入ることが許可されている。……私は、レオ様から高い好感度を得ているそうだ。


「エマとアルベルトの蜜月関係をどう暴けばいいか悩んでいたが――君が手に入れたネックレスのお陰ですべてが解決したよ」


「あのネックレスが?」


「あれはアルベルト公が生まれた日に、国王陛下が直々にお贈りになった世界に一つの宝飾品。それをエマに譲渡していたという事実が、動かぬ証拠だ」


そんな大切なネックレスを、私に濡れ衣を着せるために押し付けてきたエマは本当におバカさんだ。そしてネックレスをエマに贈ってしまうアルベルト公も、大概だけれど。



「牢獄の中でエマは、自分が『神の国の人間』なんだからもっと丁重に扱えと吠え続けていたよ」

「……神の国? 彼女は精神を病んでしまったのかしら」


「実はね、シルヴィア…………私も前世は『神の国』にいたんだ」

レオ様はうつむいて、罪を告白するかのように呟いた。


「レオ様が……? そもそも神の国とは、実在する世界なのですか?」


「あぁ。私はいわゆる『開発サイドの人間』でね……この世界の構築に関わっていた。すべて忘れていたんだが、熱病にかかったあの日すべてを思い出した。そして同時に、献身的に看病してくれる君の尊さに気づいたんだ。……こんな私を、世迷言をいう狂人だと思うかい?」


「いいえ。まったく思いません」

私は即答していた。


「レオ様がおっしゃるのなら、神の国は実在するに違いありません。天地創造の神々のお一人がレオ様だったなんて……そんな尊い方の妻になれる私は、世界で一番の幸せ者です」


彼を見つめてそう言うと、レオ様は頬を赤く染めていた。


「くっ、君は本当にかわいいな……」

今のレオ様は、普段の堂々としたレオ様とは別人のようだった。視線を泳がせ、どこかそわそわした様子で問いかけてきた。


「シルヴィア。やはり学院の卒業まで待った方が……いいのだろうか?」

「なにをですか?」


「実はこの世界は、18禁ゲームなんだ」


獣破じゅうはチキン遊戯ゲーム……? 狩猟大会や鷹狩りのようなものですか? 耳慣れないゲームですが、とても危険そうですね」

「まぁ……ともかく危険なゲームなんだよ」


男子寮とか個室とか……いかにも、それっぽい設定だろう? とレオ様はおっしゃったけれど。私にはよく分からない。


「マズイな……君と二人きりだと、18禁に踏み込んでしまいそうだ……。誘っておいて悪いが、外に出ようシルヴィア」


レオ様は私と距離を取り、部屋から出ようとしていた。私はそんなレオ様を引き留めたくて、彼を後ろからきゅっと捕まえた。


「……シルヴィア?」

「淑女らしからぬ私を、お許しください。……私は二度と、レオ様と離れたくありません。エマと親しくしているあなたを見て……胸が張り裂けそうでした。たとえ演技でも、あんなマネは二度としないでくださいね。私が、あなたの一番でなければ嫌です」


「一番どころか、世界でたった一人の君だよ」


レオ様は私を抱きしめ、そっと唇を重ねてくれた。

私もぎゅっと抱きしめ返す。


私たちは見つめ合い、互いに愛をささやき合い、そのあとは……




…………………………そのあとのことは、私からはご説明できません……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰色の悪役令嬢は婚約者に溺愛され『ざまぁ返し』の手ほどきを受ける 書籍6/15発売@夜逃げ聖女の越智屋ノマ @ocha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ