第14話 私のせい
山梨は、驚愕する私たちをじっと見つめ、気味の悪い高笑いを上げた。
…………どうする?こいつは不死身なのか?いや待て、冷静に、現実的に考えろ。そんなファンタジー映画みたいなことが起こるはずがない。ここは戦争中の世界、誰もが現実を突きつけられる世の中…。
RRRRRR RRRRRR ……
「
「お、おう………
『日暮?そっち大丈夫!?』
「ああ、
『もやしって……お前あとで覚えとけ』
「泉野さん、これって……?」
私は、何かを察しながらも確証を得るために尋ねた。
『……ああ、見てるよ。妙なことに、議員の息子がそこにいるな』
ふと空中を見ると、小型のドローンが高い位置で飛んでいた。カメラで見ているのか。
「何してンノ?俺モイれてヨぉぉ!」
ドドドドドドドドド
山梨はとうとう発砲してきた。的はかなり外れてバラバラだが、狂気じみた動きで予測がつかず、危険だ。
「僕!あいつの相手してくるから!」
長瀬さんは、そう言い捨てて、攻撃してくる山梨の方へ走っていった。
「おう、頼んだぞ長瀬!」
いや、ひとりでは危険じゃ……
ドドドドドドドドド
弾…避けてる……?
「なーに心配してんだよ。見るからに大丈夫だろお?」
日暮は、長瀬さんの姿に唖然とする私の顔を覗き込んでにやっと笑った。
さっきの日暮の弾よりはスピードが遅いとはいえ、銃弾を避ける人間がこんなに同じ場所に集まることが…………いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
念のため、私たちは山梨にバレないように草村に隠れた。
『……ゆっくり話せる状況でもないよな。簡潔に話す』
「これ、どうすればいいんだ?ってか、どういうことだよ?」
『ああ……
こんな状況でもさり気なく煽る泉野さんはどうかと思うが、それよりもこの不可解な“状況”の方が気になる。私は、何も言わずに息を呑んだ。
『まず、議員の息子……
人間…ではない。
私は、クロエに撃たれた彼が血の一滴も流さなかったこと、人工物のような目を思い出した。
あれを見て、生き物だと思う方がおかしいだろう。
「それで……物理的に、殺すことはできないの?」
「物理的ぃ?」
例え、人ではなくなっていたとしても、議員の息子という……政府の関係者という立場は変わらない。あいつを殺す方法があったとして、それをすれば私たちは完全に反逆者として知られる。
まあ、自爆があった時点でかなりやばい状況なのは変わりないが……
『あ、川森ちゃん。政府のことなら一旦忘れて』
電話越しに、清野が小声でそう言った。
『山梨はどっちにしろ、殺さなくちゃいけない。この村のためにも、私たちの……目的のためにもね。それに、まさくんが色々分析?して、わかったんだけど……あれは4号なの』
「4号?」
『……説明すると長くなるから率直に言う。今は鵜呑みにしてくれ。…………恐らく、だ。俺の憶測でしかないが、あいつは……人の体を残した機械の
…………クローン……?
「…SF映画かよお………」
日暮は冷や汗を流して息をのんだ。
私だって、頭は追いついていない。でも逆にそれが嘘だという根拠もないし、間違っていると断定する価値はない。今は言われたとおり信じることにする。
『クローンって言ってもね、本来は人造人間だから、山梨はほぼ機械なの。まだそこまでの技術は発展してない。無駄に量産だけしてるみたい』
「じゃあ、ひとり……いや、1体ではないってこと」
『うん……』
「でも待って、4号って言ったよね?」
数えれば、クロエを撃って自爆したやつ、今目の前にいるやつで2体だ。
4号ということは……
『ああ……この村には、山梨が3体来ている』
あれが……3体…!?
「だったら
日暮は腕を鳴らして首を回した。
「でも、どうやって?」
電話越しに、泉野さんは、少し楽しそうな声で言った。
『死なないなら……壊せばいい』
「壊す…」
『山梨は血もないし、あまりよくできたモノじゃないっぽいから、中身はほぼ機械。だから、機械が動く原動力になる部分を破壊する』
「それって?」
『頭、だ』
頭?
『本来脳がある場所。クローンだろうと機械だろうと体を動かすためにはプログラムがいる。MPSD105……まあ、メインの動力を感知できる装置があって、そいつが頭部辺りに反応した』
そんな装置、どこに?
私は辺りを見回した。……ああ、あれか。
山梨の周りに飛んでいる小さなドローン……。よく見たらカメラらしきものの横に、四角い何かの機械が取り付けられていた。
日暮は少し不気味な、満面の笑みを浮かべながら立ち上がった。
「……わかった。“頭”を潰しゃあいいんだなあ?早く言えよ。俺にはその情報しか必要ないんだからよ!」
『え、ちょっと日暮!?』
日暮は、すごいスピードで走り去った。気づいたときには長瀬さんに加勢している。
『まあ……うん。予想はついてた』
泉野さんは少し笑いながらため息をついた。
『だから、
……つまり、日暮が理性失って暴れ出さないように見てろって?
「……はぁ……了解」
『頑張って、川森ちゃん!』
『通話は切るけど、何かあったらドローンが音拾えるように喋ってくれればこっちは聞こえるから』
そう言って、泉野さんは通話を切った。
「……日暮…」
「みィツけタァアァァァァア」
…………!!
私は突然草村をかき分けて目の前に現れた山梨から逃げるように後ろに飛んだ。
まずい、こっちは村が……!
山梨から距離を取りながら、私は村の門の方へ戻る。
「川森!大丈夫か!?」
「私は大丈夫、だけど、絶対村の奥には行かせないようにしなきゃ」
「凛さん、後ろ!」
え……?
ザザザザザザザザザザ
刃物の音に反射的に振り向くと、斬り傷だらけの山梨が………え?
山梨は私たちの正面にいるのに………?
あ……!
「2号か3号だな……」
待って、斬ったのは誰?
「政府に仕えるSP、とは………このようなものなのですか」
「
相変わらず刺すような鋭い視線で私たちを見つめながら、夕日に照らされ、金色に光る刃を下ろした。
「このようなものって……」
この状況で煽るなんて、泉野さんと変わらない気がするが。
「まあ、今はそんなことを言っている暇はないでしょう。……これの弱点は」
「ぁ…頭だ……」
「御意」
尋常じゃない冷静さで、隼さんは状況を飲み込んで動き出した。
「人間ガひトリ増えタとこロデ」
隼さんは表情ひとつ変えずに、ひたすら頭を狙って刀を振っていた。……でもやっぱり、簡単には当たらない。
………これで終わりじゃない。どこかにもう一体いる。
恐らく……泉野さんみたいに正確な機械を使ってはいないから憶測だが、門の方にいる今長瀬さんと日暮が戦っている山梨が“4号”なら、隼さんが相手している山梨は“2号”だ。
クロエがやられた山梨は、すぐに壊れ、自爆した。今ここにいるやつらよりは遙かに弱かった。だからあれは1号で間違いない。
このまま性能段階で名前がついているなら、1号と4号のレベルの差を考えると、ここにいる山梨は二段階上がっている計算になる。
誤差がある可能性もあるが、そう仮定するのは間違いではないはず……
…………そう。ということは、だ。もう一体のどこかにいる山梨は、こいつより強い。
ここで全員の体力を消耗するのはリスクが高い。
「日暮、長瀬さんは4号に集中して!隼さんは2号に!」
日暮と長瀬さんは、一瞬こちらを向き、またすぐに戦闘に戻った。
「……了解!」
隼さんは変わらずに刀を振っている。私は隼さんの方に加勢………
もし、これで3号がどこかで被害を出していたら?
私たちは手が放せない。誰も…助けに行けな
「
………!?
「お待たせ!ご迷惑おかけしましたー!」
………え
「クロエ!?」
クロエが、さっきまで眠っていたのが夢か何かと思うぐらいに、いつも通りのテンションで元気よく走ってきていた。
隣に、もうひとり………
「クロエ、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。まあ、いつもの調子ではないけどね」
「おい、隣のやつ誰だよ?」
「ああ、この人、なんか途中からついてきた」
ゆるいパーマがかかった金髪で、隼さんと同じような、武士のような着物を着た男が、その場に合わない笑顔で口を開いた。
「僕は長瀬一族分……って今それどころじゃないかぁ……
このやりとりを戦いながらやっていたという異常な光景も、今は気にならなかった。
………戦える人数が増えた。
これなら、もう一体を探す時間が稼げる……!
私は、隼さんと目があった。考えは同じなのだろう。
私は政府を、隼さんはこの村のことをよく知っている。
「……じゃあ、クロエ。それから隣の人」
「…
「事情はあとで話すから、ここは任せる」
ダダダダダダダダダダ
その瞬間に、私と隼さんは同時に走り出した。
「任せるって……急だねー凛ちゃん。…………おっけ、任せてよ!」
ザーザーザーザー……
タタタタタタタタタタ
木々が風になびいて、かすれる音が小さく鳴っている。目立つのは私と隼さんの足音だけ。
この静けさなら、あんな騒がしい機械なんかすぐに見つけられそうだが……。
「あの機械人形………あなたを随分と気に入っていたようですが……」
隼さんの唐突な言葉に、私は思わず息を呑んだ。
言いたいことは、わかってる。気づかないふりもこれまでか。
「あなたのおかげでここが襲われ、政府にばれた、そういうことでしょうね」
…………私のせい。
そんなのわかってる。ここで山梨の姿を見た瞬間、私が日暮たちと出会わなければとか、考えた。……でも、今はそういう問題ではないとわかる。
どろっどろな政府で、散々学んだでしょう川森凛…!
……今ここで、自分を責めて情に浸るのは正解じゃない。
SPならば、私ならば、やるべきことに最短な道だけを辿る……!
「私のせい。知ってます、そんなこと。…………久しぶりに命懸けるんで、黙っててください」
「………!」
ザザッ
私たちは走る足を止め、一歩後ろに下がった。
…………いた。
「カカカカカ………」
言葉と機械音の狭間のような音が、木々の下で響き渡った。
Anarchy すずちよまる @suzuchiyomaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Anarchyの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます