最終話
10
改めて、解決編だぜ。
俺様のルームメイト、トイレの花子こと花ちゃんの名推理をたんと聞いたところで出番が回ってきたぜ。
度々、名前だけ登場する、この神ちゃんていう奴はどんな奴なのだろうとか、このまま最後まで出てこないのでは無いかとか思ったかもしれないが、それは違う。
それらこそがそう。
置き手紙に書いたように綺麗好き。
万の神の一員にして、不浄を焼き尽くす大神、
この俺様の登場を引きたてるためのただの伏線だったという訳だ。
「助けて、神ちゃーん!」
泣きつく花ちゃんにさっと俺様、大丈夫だ、安心しろって二言耳にそっと伝える。
慌てる民衆、動く人体模型に、動く肖像画、テケテケまで一蹴して、俺様が黙らせてやるさ。
理科室のドアをガラッと力強く引き開ける。
衝撃吸収ゴムの勢いが壁にぶつかり、ガダンといった強烈な音を生み出す。
テケテケの血走った若い目が、人体模型の無機質で虚ろな目が、肖像画の凛々しくも、力強い目が、一堂にこの俺様に釘付けである。
「神ちゃーーーーん!!」
電光石火、青天の霹靂、一同騒然。
ほら、来い。
俺様の前に跪きな。
「あーん。可愛い可愛い神ちゃんが帰ってきたわよー。」
あーよしよし。はいはい、良い子良い子。と、人体模型。
おい…
「わたくしにも見せて下さい。あら、今日も本当に可愛いまさにフォルテッシモ!」
おい、おい…
「あー、神ちゃーん。ほら、これ見てよスマホ。拾ったんだよ。ほら記念にピースして、ピース。イェーイ」
っておいおいおい…
お前ら話を聞け!
「何可愛い!いつもながら、口悪いけど、小さくて可愛い。可愛すぎて、食べちゃうなんて、勿体無いほどね。いや、わたしはそれでも食べるけどね。」
「食べるなんて下品な、丁重に扱ってこそ可愛いものへの敬意があるという物でしょう。ほら、神ちゃん、わたくしの目に飛び込んで来なさい。痛く無いから、全然、痛く無いから」
「もー、みんなどいてよ。あーしは腹にも目にも入れないよ。だから、おいでー。画角に入れるだけだから!」
もう!なんだよこいつらいつもいつも。
ちびっ子扱いしやがって、神様だぞ。もっと敬いやがれ。
お前ら、上から見てんじゃねぇ。
レンズをこっちに向けるな。
おい、やめろやめろ。
本題にさっさと行くぞ、お前ら。
テケちゃん、花ちゃんはどこに行ったんだよ。
「あそこで丸まってるよ。監査部隊から逃れるために少しでも体を小さくするんだって。なんか、推理が上手くいかなかったとかどうとか」
「まぁ、難しいことは分かんないから良いけどねー。あーしは花ちゃんが心配だよ」
とまさに楽観的を模られたような上半身は言った。
お前、犯人に仕立て上げられるところだったんだぜ。とでも言っても伝わらないだろうから、仕方なく、何もしないぜ。知らないぜ。
こっからは俺様が推理を訂正させてもらうぜ。
お前ら、花ちゃんもこの俺様の声だけには聞き耳立てとけよ。
さぁ、行くぜ。
11
では始まりまして、始めるぜ。
少女達の集団は怪我をした。
その犯人探しというのが、今回の問題だ。
彼女達の中に犯人はいない。
つまりは自業自得というか、そういった怪我のマッチポンプは無かった訳だが。
しかも、いもママ曰く、今晩には彼女達の他には一切の人の侵入が無かったというではないか。
だからこそ、みんながそう思ったように、犯人はお化けの中の誰かということになるのだけれど。
それが違うんだぜ。
あり得ないって?
まぁ、ほぼあり得ないだろうな。
いもママにも見つからない、テケちゃんにも見つけられない。そんな人間は居ないはずだった。
肝試しにここへ訪れる以外に、そんな人間は居るはずが無かった。
ただいたんだ。
昨日なら居たのだ。
いもママにも、テケちゃんにも見つけられない謂わば、『透明人間』という奴がな。
透明人間って言ったって、お化けの類じゃないぜ。歴とした、良い人間さ、綺麗好きな人間さ。
勿体ぶるなんて、俺様らしくないな、答えをさっさと言おう、フェアじゃないと思ったから、置き手紙にヒントは置いてあったんだがな。
少女を怪我させた、犯人それは『スマホの中の彼女』だよ。
スマホの中の彼女が誰か分からないって?
分からないかな、所々伏線という伏線を貼って、張って、巡らして来たのだけれど。
トイレにだって、エレベーターだってなぜ電気が通ってやがる?
ここは本当に廃校なのか?
いや、確かに生徒こそ通っては居ないけれど、では忘れ去られるほどのそれなのか?
答えれば、それはNOだ。
その証拠こそが、かの俺様が住んでいるトイレではないか。
何故、俺様はトイレに住むことができる?
綺麗好きだと言っている、不浄には近づけないと。
トイレには、定期的に管理が入っている。
そのスマホの中の彼女こそがその管理者という訳だ。
ではここから、解いていこう。
彼女が犯人だとすると、繋がっていくのだ。
トイレの管理者というか、学園の管理者か?
まぁ、ともかく管理者が何故今まで一度も見つからなかったのか。
そもそも、お化けの中には、夜間出会う程度のことで会うことのできる者もいる。
何故会えない?
それは簡単だぜ。
夜じゃないからだ。
彼女は基本、日のある時間の内に仕事を終えてしまう。
それはそうだよな。
夜にわざわざ、肝試し以外で訪れるものは居ないと言ったのはこちらだし、昼こそが人の時間であり、夜こそがお化けの時間であるからだ。
じゃあ、あの日何故、夜訪れなければ行けなかったのか。
それは昼のうちに落とし物をしてしまったからだ。
そう、それこそがその『スマホ』だ。
彼女はスマホを管理の間にトイレ付近に落としてしまった。
だから、探しにきた。
肝試しに来ては居ないから、いもママの視覚に映る、資格が無かったという訳だ。
次に、テケちゃんにも見つからなかった訳だ。
これは言っていないけれどね。
テケちゃんが人を見るとはどういう条件なのか。
どういうお化けとかいうのがヒントなのだけれど、どうかな。分かるのかな。
アイちゃん、答えてあげて。
そう、テケちゃんが見ることが出来る条件、多くの人は見える条件、でもだからこそ抜け落ちた。
というか、切れ落ちた。
テケちゃんが見る条件それは『足があること』であるのだ。
彼女は足がなかった。手は使えた。
と言ってももちろん、テケちゃんみたいに、両腕で持って高速で走るってわけじゃもちろんない。
腕を使って体を運んだんだ。
車椅子に乗って。
エレベーターも完備のこのバリアフリーの見本学校にはそれほど無理なく入ることが出来るだろう。
廊下の暗闇から現れる何か。
ギーギーギーと鳴る車椅子。
つまり音は、ドアの蝶番の回る音ではなく、車椅子の車軸の回る音だった訳だ。
少女達が驚き、逃げ惑った後にテケちゃんは現れる。
そこに落ちていたスマホをテケちゃんは拾った。
車椅子の彼女の姿は捉えられなかっただけで、そこに居たのだ、透明でいた。
スマホは見つからない。
時間ももう遅い。
彼女は帰った。
これこそが、お化けではない、ただの透明人間が現れ、そして消えたお話の真実という訳だ。
「凄いわ!神ちゃん、流石神ちゃん。本当にサイコーよ。わたし鳥肌立ったわよ。プラスチックだけど。」
「エレガンツァ、素晴らしい推理だったわ。本当に可愛らしい。ねぇ、4階のお手洗いに引っ越しません?ねぇ。」
テケちゃんは、あの黒いちっこいのに話に行ったか。やれやれだぜ。
聞こえてたようだな、まぁこれなら、よく調べてもらえば花ちゃんのせいにはなるまいよ。
俺様ももう寝るぜ。
お前らも、もう朝も早い。時間は終わりだぜ。
さっさと帰るぞ。
黒いのは動き始める。
赤いスカートの、白いシャツの、黒いおかっぱがやっとしっかり俺様の目に映る。
ほら、行くぜ。
花ちゃん。
12
良い仕事が見つかってよかった。
人見知りの激しい自分だもの、これほどまでにぴったりな場所があるものか。
トイレにスマホが落ちている。
私のである。
昨日探しに来て、見つからなかったそれだ。
良かった。
画面をつける。
壁紙に変な文が映し出される。
いつもありがとう
神ちゃん、花ちゃんより
奇怪で、奇妙で、恐ろしい場面である。
昨日の少女達にやられたか?
でも私は、人見知りの私は、その文章に嫌な思いをしなかった。
まるで、人ではない何かの悪戯のようで。
【三題噺】あたしら、お化けは怪我させない 端役 あるく @tachibanaharuhito
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