第4話

8

ないないない。

裏付ける確たる証拠が残ってない。

どこかに仕舞うとしてもあの時間、ほんの数分でどこに隠すことができる?


あたしことトイレの花子は探していた。

差し迫る時間に追われながら、思考をめぐらした結果ある推理へとあたしは辿り着いた。


我が家に、つまりはトイレに篭りながら、最後のほんの『最後の希望』をトイレの壁に立てかけてある。これはネタバレだから言わないよ。


謎解きの鍵だからね。

あたしは探偵ではない。

が、やるしかない。


色々考えをまとめるうちに、トイレットペーパーがペンによって黒々と塗りつぶされていく。


なんかむしゃくしゃして、あたしはペーパーをくしゃくしゃにする。


よし、もう行くか。

推理は整えられた。


便座から腰を持ち上げ、ギーギーとそれこそ、あの録音器具から流れる不快な音に似通った音を奏でる。


トイレの入り口、まぁ、今は出るところだけれど、ふと花子はそれに気がついた。


ある置き手紙というか、置きメモがある。


なんだ?学校にちなんでラブレターでも誰か置いて行ったか?

それはそうだとしても、トイレに置くというのはナンセンスが過ぎるというものだけれど。


『花ちゃんへ 帰ってきました。お使いに頼まれていたものあとで渡します。少々、賑わっているので、後々、そこへ向かうことにでもします。親愛なる友人 神ちゃんより』


追伸

今頃、花ちゃんはトイレをペーパーで汚しているかも知れません。綺麗でなければ、神様は寄り付けないので、片付けておいて下さい。


かの名前だけいくつか出てきた神ちゃんだったけれど、ついにその存在がこんな形で証明されて良かったぜ。


実際、あたしが居なくなってから、彼女が帰ってきたら心配だったからね。


しかしながら、神ちゃんは察しがいいというか、なんというか、あたしがペーパーをビリビリに破いたことなんてなぜ分かる?


まさか、見てたってことは無いのだろうけれど…


良いや、気にしない。

ここからは解決編、解読編。

すっきり解消しようぜ。この問題。

ここまでお送りしたのはあたしことトイレの花子でした。


ではまた、理科室で。


9


さぁ、さぁお集まりいただきありがとうございます。解決編です。


「どうしたの花ちゃん?そんな喋り方になって。まさか、新手の病気?叩こうか?」


そこ静かに!

あと昔のテレビみたいにすぐ叩くとかいうのやめて。

治るどころか、治らない傷がつきかねないぜ。


「花子ちゃん、みんな、えとテケテケちゃんと、ガラスちゃんとわたし、一応呼ばれた人はみんな集まったわよ。」


「わたくし、忙しいのですけれど。やるならさっさとやりませんか?頼まれたものを運ぶのも疲れましたし。今日はもう、壁にかかって寝たいのですけれど。」


ではでは始めましょう。

怪我をした女の子の犯人当てを。


「まさか、花ちゃんはこの中に犯人がいるっていうんじゃないでしょうね?」


そのまさかなんですよ、いもママ。

この不肖、花子は推理しました。

探偵では無いけれどね。


「わたくしではありませんよ。違います。いもママ、こっちを見ないでください。わたくしはずっと音楽室にいましたもの。ねぇ、テッケちゃん?」


「うん、ずっとアイちゃんは音楽室にいたよ。あーしと一緒に歌のレッスンしてたんだもん。」


はい、そうです。

彼女達はこんばんはずっと音楽室に居たという証言をしています。


「え!じゃあわたしが疑われるの?ガラスちゃん、そんな目で見ないでよ。あら、ガラスちゃんまつ毛長いわね!」


はい、みんな聞いて下さい。

確かにテケちゃんと、アイちゃんにアリバイがあると言いました。

でも、これには抜け目があるのです。


「抜け目?花ちゃん、あーし達がそこに居なかっていう何かがある訳?」


「そうよ、あなた、テッケちゃん。途中で少し居なくなったじゃない!」


「そうなの、テケテケちゃん。じゃあ何、嘘の証言をしたの?」


「え!あーし、犯人なの!確かに数分の間、抜け出したけど」

テケテケは心底驚いたような態度を取る。

あれ、こいつ別にやってないんじゃないかと頭をよぎったが推理を続ける。

もう止まれないぜ。


テケちゃん、あたしはあなたを疑っています。

今晩、女子小学生達を驚かせて、怪我を負わせた犯人として。


友達としての負い目?

そんなものはない。

お化けにそんな気遣い無用である。


「あーしが犯人だって、あーし知らなかった!花ちゃん教えてくれてありがとう。んでんで?」


何を楽しそうにしてやがる。

本物の天然そうにしやがって、あたしじゃなけりゃ危うく騙されるところだぜ。


それでは解決編、内容に入っていこう。


では、まず、テケちゃんが犯人ではない可能性について語っていこう。


テケちゃんが犯人であれば、絶対に避けられないことは何なのか。


あの場所、あの時間において、彼女が犯人であれば起こってしまう矛盾とは何か?


それは『足音』だ。


彼女の足音は爆音で隣に歩くあたしはよく知っている。それこそ、耳に残り、ゲシュタルト崩壊を起こすことに(なんと、あの無駄なペタペタの連発はその時の伏線だったのである!)。


アイちゃん、例の録音を聞かせてくれない?


そうそれ、それ、重いのに持ってきてもらって悪いね。


………

と、今聞いてもらった訳だけれど、どうだろう?


そう、ペタペタという音は少しも含まれていないんだぜ。

じゃあ、彼女が犯人ではないのか?

ノンノン。


足がなければ、手を使え、手が無ければ頭を使えば良い。


別に足がなくったって、手で歩く必要は無い、人は随分と便利なものを発明しているからな。


例えば、これだ。


あたしはここぞとばかりにさっき詳細をひた隠した『最後の希望』を取り出した。


そうです、これこそが起死回生の道具、『一輪車』にあります。

小学校だぜ、ここは一輪車くらい何台ももちろん置いてある。


つまり、そうです。

一輪車に大道芸のように、雑技団さながらに手でペダルを漕ぎながら進みさえすれば、手を床につけることなく、近づくことができる。(本当ならば、車椅子でも見つかれば良かったのだけれど無かった。大道芸なんて出来るとは証明できないけれど、テケちゃんならやりそう。)


ギーギーギーという音は、つまり、あたしのトイレの蝶番の回る音ではなく、一輪車のハブ部位の回転音だった訳です。


時間が短すぎるのでは無いかって?

エレベーターがこの学校にはついているでしょう。

それを使えばさっと、一階の一輪車乗り場に行って、三階に登り、脅かした後、一階に再び一輪車を返しに行き、四階の音楽室に帰ることができる。


証拠はあるのかって?

また、そんな犯人みたいなこと言ってこのかわいいテケちゃんめ、天然なのか?喧嘩売ってるのか?


証拠はあなたの手に握られているでしょう。


スマホが。


それが何よりの証拠。

昨晩にあなたがそんな高価な物を持っていなかったことはあたしが、それにいもママだって、アイちゃんだって知っているはずです。


今時の小学生は神ちゃんが語るところによるとそれをみんな一人残らず持っているらしい。

そのスマホ、かの小学生が落とした物を拾ったんじゃ無いですか?


違うって?

あの時確かに、3階に行きはしたし、スマホもそこで拾ったけれど、女の子の姿をほんの少しも見てないって?

誰もいなかった?


いやいや、犯行前に行ったなら、少女達を見るだろうし、犯行後に行ったなら、犯人の少しでも見てるはずだろう?


それなら、スマホの画面見せてみな。

ホームの壁紙でも見れば、それもはっきりするだろうぜ。


あれ?


ホーム画面には、若い見知らぬ女性と、同じ世代の男性が映っている。

肝試しに大人を連れずに来る年齢の小学生の子供がいる年齢には見えないが…



と、花ちゃんは考えているだろう。

だめだね。

推理が足りないぜ。

置いていた俺様の置き手紙を読んで無いのかね。


さぁさぁ、宵も過ごして、明けが来る。

解決編ならぬ、解読編ならぬ、改修編ならぬ、伏線の回収編とでも言って始めよう。


俺様こそが探偵。

トイレの花子から変わりまして、トイレの神様、綺麗好きの烏枢沙摩明王うすさまみょうおう


俺様こと、神ちゃんでした。

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